第22話

>>21
61
2019/03/27 13:57
廣瀬さんが京を離れて一週間ほど経ったある日。

夕餉の材料を買いに、緋山さんと八百屋を訪れていた。
諸星明日香
諸星明日香
この大根は大きくていいですね。すみません、これ買います。
店主
まいどありー!嬢ちゃんいつもおおきに!
諸星明日香
諸星明日香
いえ!あと、そのかぼちゃも買っちゃおうかな。
店主
はいよ、おまけ!
諸星明日香
諸星明日香
いいんですか?ありがとうございます!
緋山圭
緋山圭
...明日香さんはいいお嫁さんになりそうですね。
諸星明日香
諸星明日香
えっ?あっ、そ、そんなこと...
突然褒められて顔が赤くなる。
野菜の買い物を終えた私達は並んで屯所へと帰り始めた。
諸星明日香
諸星明日香
...そういえば、廣瀬さんが江戸に行って一週間が経ちますね。
緋山圭
緋山圭
本当ですね。彼はきっと今頃忙しいことでしょうね。あんな大役を任されたのだから。
諸星明日香
諸星明日香
そんな大役の仕事なんですか?
緋山圭
緋山圭
えぇ、まぁ。ご存知ないんですか?
諸星明日香
諸星明日香
は、はい
緋山圭
緋山圭
...廣瀬くんも、いじわるですね。
諸星明日香
諸星明日香
??
言っている意味が分からなくて目を白黒させる。
すると、背後から聞き覚えのある声が届いた。
おさな
おさな
明日香はんっ
諸星明日香
諸星明日香
おさなちゃん...!
おさな
おさな
今時間ある?
諸星明日香
諸星明日香
えーっと...
私はちらりと緋山さんの顔を窺う。
困った顔を向ける私に対して、緋山さんは、ニッコリ笑った。
緋山圭
緋山圭
大丈夫ですよ。食材なら私が屯所へ持ち帰りますので、ゆっくりお話されてください。
諸星明日香
諸星明日香
すみません、ありがとうございます!
深く一礼すると、おさなちゃんのもとへ駆け寄り、並んで歩き始めた。
おさな
おさな
...さっきの人、確か月宮団の...
諸星明日香
諸星明日香
三班隊班長の緋山さん。優しくて強い人だよ
おさな
おさな
へぇ、男前やねぇ。でもまぁうちは廣瀬はんやけど
ドキッ。

廣瀬さんの名前が突然出てきて何故か緊張してしまう。
おさな
おさな
ほな、甘味処うちの店でゆっくりしよ
諸星明日香
諸星明日香
う、うん。
おさなちゃんの実家である甘味処へやってきてお団子を食べながらおさなちゃんはゆっくり話し出した。
おさな
おさな
この間、うちは廣瀬さんに助けてもろたって話、したん覚えてる?
諸星明日香
諸星明日香
うん、覚えてるよ。
巡察帰りに白夜さんと九十九さんと甘味処に来た時、確かにおさなちゃんはそう言っていた。
おさな
おさな
ウチな、夜中市中を歩いとったんや。そしたら辻斬りにばったり会うてしもうて、殺されかけたんや。
諸星明日香
諸星明日香
そうなんだ...怖いね...
 想像するだけでゾッとする。
おさな
おさな
ほんまにあんときは怖かった。もうあかんって思った時に、廣瀬はんが辻斬りの背中を斬らはったんや。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
廣瀬一太
廣瀬一太
ー怪我はないですか。
おさな
おさな
へ、へぇ、ありまへん...
廣瀬一太
廣瀬一太
そうか。ならよかった。
廣瀬は腰が抜けてしまったおさなにそっと手を差し伸べる。
廣瀬一太
廣瀬一太
ほら、立てますか?
おさな
おさな
お、おおきに...
廣瀬一太
廣瀬一太
もうこんな夜中に出歩いてはいけませんよ。
おさな
おさな
すんまへん。あんさん、お名前はー...
廣瀬一太
廣瀬一太
ー廣瀬...。俺の名前は、廣瀬市太郎といいます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
おさな
おさな
ー廣瀬はんはあの時、偽名をウチに教えたんや。
諸星明日香
諸星明日香
なぜ偽名を...?
おさな
おさな
あの時の廣瀬はんは浪士組...今の月宮団に所属してはったんや。今も変わらんけど、浪士組ゆうたら京の嫌われモンで恐れられてきてな。
おさなちゃんは少し切なげにぽつりぽつりと話を続ける。
おさな
おさな
廣瀬はんは浪士組の中でも強いと評判で、京でその名を知らへん人はおらんかった。やからあの時ウチに本名を言うてたら怖がらせてしまうと思わはったんや。せやさかい偽名を使わはったんよ。
諸星明日香
諸星明日香
なるほど...
おさな
おさな
...って言うのをその数日後に本人に聞いたんや。
と、優しく微笑むおさなちゃん。
おさな
おさな
そんであんときの廣瀬はんの人柄とか、笑顔とかに、惚れてもうたんかもなぁ。
諸星明日香
諸星明日香
惚れてー...
その言葉が私の胸にミシッと音をたてる。

おさなちゃんも、あの笑顔に救われたんだ...。
おさな
おさな
ってのは昔の話や!安心しぃ明日香はんっ♡
諸星明日香
諸星明日香
私は別にっ...!!好き...とかじゃ...
おさな
おさな
ほんまに〜っ?そやったらウチ今からでも会いに行こかなーっ♡
おさなちゃんは悪戯っぽく言ってみせる。
諸星明日香
諸星明日香
もうっ、おさなちゃんてば...!...それに、廣瀬さんは今はもう京には居ないんだ。
おさな
おさな
え、そうなん?
諸星明日香
諸星明日香
うん、突然お偉いさんに江戸へ戻るように文が届いたらしくて。
おさな
おさな
そうなんや...廣瀬はんも大変やねぇ...。となると、明日香はん、寂しいんとちゃう?
諸星明日香
諸星明日香
んまぁ、ちょっとは...寂しいかも。
ばーか。
ちょっとどころじゃないくせに。
寂しくて、廣瀬さんの胸の中で泣いてたくせに。
おさな
おさな
ふふっ♡今日はおおきに明日香はん、また暇できたらウチにおいで!
諸星明日香
諸星明日香
うん、そうするね。こちらこそありがとう!
そう言って私はおさなちゃんと別れた。


それは涼しい秋の昼下がり。

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