廣瀬さんが京を離れて一週間ほど経ったある日。
夕餉の材料を買いに、緋山さんと八百屋を訪れていた。
突然褒められて顔が赤くなる。
野菜の買い物を終えた私達は並んで屯所へと帰り始めた。
言っている意味が分からなくて目を白黒させる。
すると、背後から聞き覚えのある声が届いた。
私はちらりと緋山さんの顔を窺う。
困った顔を向ける私に対して、緋山さんは、ニッコリ笑った。
深く一礼すると、おさなちゃんのもとへ駆け寄り、並んで歩き始めた。
ドキッ。
廣瀬さんの名前が突然出てきて何故か緊張してしまう。
おさなちゃんの実家である甘味処へやってきてお団子を食べながらおさなちゃんはゆっくり話し出した。
巡察帰りに白夜さんと九十九さんと甘味処に来た時、確かにおさなちゃんはそう言っていた。
想像するだけでゾッとする。
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廣瀬は腰が抜けてしまったおさなにそっと手を差し伸べる。
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おさなちゃんは少し切なげにぽつりぽつりと話を続ける。
と、優しく微笑むおさなちゃん。
その言葉が私の胸にミシッと音をたてる。
おさなちゃんも、あの笑顔に救われたんだ...。
おさなちゃんは悪戯っぽく言ってみせる。
ばーか。
ちょっとどころじゃないくせに。
寂しくて、廣瀬さんの胸の中で泣いてたくせに。
そう言って私はおさなちゃんと別れた。
それは涼しい秋の昼下がり。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!