8月の暑い日だった。
私は屯所境内の掃除をしようと外に出る。
すると、井戸のそばで洗濯をする出雲くんの姿が見えた。
彼は榊出雲。特別司令隊という役に就いている。針医者の家に生まれた彼は、医療に詳しく、主に月宮団隊士の看護や健康管理、情報の伝令を担当している。
突然言葉を制されて私は目を白黒させる。
出雲くんの視線はさりげない様子で私の背後へと注がれている。
私の位置からは見えないものの、人の気配は窺えた。
出雲くんは顔を顰めて言った。
彼は以前、稽古を怠っている隊士を見つけてはこれでもかと言うほどに説教して脱退させた、なんて話も噂で聞いたことがある。
それほど剣に熱い人だ。
あの物凄く真面目で有名な九十九さんと並び称されるほどに。
出雲くんの動きは速かった。
腰に手を差し伸べたかと思うと、彼は男の顔の前に刀の切っ先を向ける。
するとその男は目を丸くした。しばらく間があいたかと思うと、少し呆れたように口を開く。
男は怯える様子もなく、むしろからかうような態度で淡々と話した。
それが出雲くんには余計に警戒心を抱かせ、刀を握る出雲くんの手に力が込められる。
今にも斬り合いが始まりそうな空気が流れた。
-と、その時だった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。