第3話

>>2
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2019/01/05 13:37
8月の暑い日だった。

私は屯所境内の掃除をしようと外に出る。
すると、井戸のそばで洗濯をする出雲いずもくんの姿が見えた。

彼は榊出雲さかきいずも。特別司令隊という役に就いている。針医者の家に生まれた彼は、医療に詳しく、主に月宮団隊士の看護や健康管理、情報の伝令を担当している。
諸星明日香
諸星明日香
出雲くん、私も手伝うよ。
榊 出雲
榊 出雲
明日香。悪いな、助かる。
諸星明日香
諸星明日香
今日遊郭の仕事もお休みで暇だから。…それにしても凄い洗濯物の量だね…。
榊 出雲
榊 出雲
ああ、昨日三班隊と四班隊が巡察中に捕物があったからな…
諸星明日香
諸星明日香
最近辻斬りが流行って聞くし、長州や薩摩の浪士も京で密会をしているとかしてないとか…。それに、いつ不逞浪士に遭遇するかもわからないし悪い話ばっかりだよね…。でもきっと月宮団の皆さんならー…
榊 出雲
榊 出雲
しっ
突然言葉を制されて私は目を白黒させる。
諸星明日香
諸星明日香
どうしたの?出雲くん。
榊 出雲
榊 出雲
視線を離さずに聞いてくれ。今、屯所の入口から中を伺っている者がいる。
諸星明日香
諸星明日香
え…?
出雲くんの視線はさりげない様子で私の背後へと注がれている。
私の位置からは見えないものの、人の気配は窺えた。
諸星明日香
諸星明日香
どんな人なの?
榊 出雲
榊 出雲
浪士風の男だ。先程から同じ所をうろうろしている。しかも、男は刀を左ではなく右に帯びている。武士たる者、左刺しが基本であることもろくに知らないとは如何なものか...。
出雲くんは顔をしかめて言った。
彼は以前、稽古を怠っている隊士を見つけてはこれでもかと言うほどに説教して脱退させた、なんて話も噂で聞いたことがある。
それほど剣に熱い人だ。
あの物凄く真面目で有名な九十九さんと並び称されるほどに。
榊 出雲
榊 出雲
間者の類か、それとも…
出雲くんの動きは速かった。
腰に手を差し伸べたかと思うと、彼は男の顔の前に刀の切っ先を向ける。
榊 出雲
榊 出雲
貴様、どこの手の者だ。所属と名を名乗れ!
するとその男は目を丸くした。しばらく間があいたかと思うと、少し呆れたように口を開く。
武士
あーびっくりした。突然そんな物騒なもの取り出すなって。...相模国、小田原藩...鷲さんに会いにきたんだ。通してくれないか?
男は怯える様子もなく、むしろからかうような態度で淡々と話した。

それが出雲くんには余計に警戒心を抱かせ、刀を握る出雲くんの手に力が込められる。


今にも斬り合いが始まりそうな空気が流れた。






-と、その時だった。

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