第26話

>>25 【最終回】
75
2019/05/20 09:43
翌日。


私は遊郭を出る支度を済ませると、遊女仲間の子や、今までお世話になった方に挨拶をした。

最後に女将の佐織さんと香純太夫に挨拶を済ませると、麻蔵遊郭の外に出た。

玄関を出ると、足を止めて遊郭を眺める。
廣瀬一太
廣瀬一太
...どうかした?
諸星明日香
諸星明日香
いえ、なんだか親元を離れるみたいで寂しくなっちゃって...。右も左も分からない私を、鷲さんがここに連れてきたんです。...懐かしいなぁ...。
最初は怖くてお稽古も上手くできなくて、大阪に帰りたいって何度も思ったなぁ。
泥酔したタチの悪い客が相手の日とか、いっぱい泣いた日もあったけど、その度周りの人に支えられて。
そんな島原が大好きで。
気づけば涙が零れていた目を、廣瀬さんは隣に来てそっと指で拭ってくれた。
諸星明日香
諸星明日香
ご、ごめんなさい
廣瀬一太
廣瀬一太
平気。じゃあ、麻蔵にお礼を言わないとね。
諸星明日香
諸星明日香
はい...!
私はすっと息を吸い込むと、頭を深く下げて涙声で叫んだ。
諸星明日香
諸星明日香
今までお世話になりました!!
廣瀬一太
廣瀬一太
明日香がお世話になりました〜っ
諸星明日香
諸星明日香
もうっ!
廣瀬一太
廣瀬一太
はははっ!...さぁ、行こうか。
諸星明日香
諸星明日香
...はい!
私達は手を繋いで、門を目指し再び歩き出す。
街には大きな門があり、県境の玄関口のような場所である。

そこへだんだん近づいていくと、何名かの男性の姿が。
金城春正
金城春正
あーすかーー!
こちらに向かってぶんぶんと大きく両手を振るハルくん。
榊 出雲
榊 出雲
往来の人に見られて恥ずかしいからやめろハル
呆れたように迷惑そうな眼差しでハルくんを見つめる出雲くん。
白夜和丸
白夜和丸
なんだなんだ!?堂々と手繋いでやがって!羨ましいぞ!
緋山圭
緋山圭
それなら私が手を繋いで差し上げましょうか?白夜くんっ
白夜和丸
白夜和丸
えっ、遠慮しとくよ...
2人の掛け合いで、気恥しくなって手を離そうか迷った刹那、廣瀬さんはその手を離さないとばかりにぎゅっと強く握った。
諸星明日香
諸星明日香
っ!?
ぱっと廣瀬さんの顔を見上げる。
彼は意地悪な笑みを見せてきた。
うぅぅ...ずるいよ...完全に私の反応を楽しんでるよこの人!!
廣瀬一太
廣瀬一太
月宮団みんなで見送りに来てくれたんだ。わざわざ悪いね。
金城春正
金城春正
へーきだって!!二人とも、京を出てどこに行くんだよ?
廣瀬一太
廣瀬一太
大阪だよ
九十九京助
九十九京助
上役には役所を降りることを伝えたのか。
廣瀬一太
廣瀬一太
うん。直接話しに相模に行こうとも思ったけど、相模に帰って大阪に行くのも二度手間だしね。明日香の故郷に行くのを優先しようと思ったんだ。でもちゃーんと「頭並を辞退したく候」って、文を届けたから
九十九京助
九十九京助
そうか。...元気でな。
廣瀬一太
廣瀬一太
はいはい笑
九十九京助
九十九京助
諸星も。あまり無理をするのではないぞ。気が向いたらまたいつでも月宮を訪ねてこい。
諸星明日香
諸星明日香
はいっ!...九十九さんも、お体を大事になさってくださいね!風邪を召されないようにご飯もしっかり食べてくださいね!?
九十九京助
九十九京助
あ、あぁ...
浬
まるで九十九の嫁のようだな。
諸星明日香
諸星明日香
へ?
廣瀬一太
廣瀬一太
やめてよ浬さーん。明日香は俺のもんだし。俺が守るんだからな
諸星明日香
諸星明日香
ちょっ...!
浬
その言葉、信じているぞ廣瀬。
松浦凛太朗
松浦凛太朗
明日香、俺はしまともう少しここにいるよ。大阪でゆっくり幸せに暮らせよな!
島津裕道
島津裕道
また文も出すからさ。
諸星明日香
諸星明日香
うん!ありがとう二人とも。たまには大阪にも帰ってきてや!
そう言うと、しまは拳を前に突き出してきた。
私も拳を握りしめてしまの拳にコツンと合わせる。
島津裕道
島津裕道
この動乱の時代を、必ず生きぬく。約束だ。この拳にかけてな。
諸星明日香
諸星明日香
.....うん。約束。
しまと会えるのも、もしかしたらこれっきりかもしれない。
しまだけじゃなく、月宮団の人とも。
彼らが武士として生きる道を選んだ限り、明日も武士の誇りをかけて生きていられる保証はどこにもないからだ。
そうして大勢の人に見送られながら大門をくぐった私達は大阪へと歩き出す。
廣瀬一太
廣瀬一太
大阪はいいところなの?
諸星明日香
諸星明日香
はい!とっても住みやすい街です。街の人もみんな温かくて自然もあって。きっと、廣瀬さんもお気に召されると思います!
廣瀬一太
廣瀬一太
...あ、またそれ。
諸星明日香
諸星明日香
え?
廣瀬一太
廣瀬一太
そろそろ廣瀬さん呼び卒業しない?
諸星明日香
諸星明日香
で、でも...
廣瀬一太
廣瀬一太
また、可愛い声で“一太”ってよんでよ。昨夜みたいにさっ
諸星明日香
諸星明日香
っー!
その言葉で一気に顔が熱くなる。
昨夜のことを思い出すだけでも恥ずかしいのに。
廣瀬一太
廣瀬一太
ほーら、よんでよ。
諸星明日香
諸星明日香
むむむ無理ですっ!!
廣瀬一太
廣瀬一太
なんでー?もしかして恥ずかしいの?
諸星明日香
諸星明日香
当たり前じゃないですかっ!
廣瀬一太
廣瀬一太
昨夜のほうがもっっと恥ずかしいことしてたのに?
諸星明日香
諸星明日香
もうっ.....意地悪しないでください“一太さん”
廣瀬一太
廣瀬一太
っー
照れつつも彼の名前を呼ぶ。
その途端、強く抱きしめられた。
諸星明日香
諸星明日香
きゃっ!?どうしたんです...!!?
廣瀬一太
廣瀬一太
ごめん、可愛すぎて我慢できない。今ここで口付けたいんだけど。
諸星明日香
諸星明日香
何言ってるんですか!ここは人も通ってます!
廣瀬一太
廣瀬一太
ここじゃなかったらいいんだよね?
諸星明日香
諸星明日香
そっ、それは...っ!!
私が困っていると、廣瀬さんはゆっくり体を離して可笑しそうに声に出して笑った。
廣瀬一太
廣瀬一太
っはははは!冗談だよ!
またやられた。

でも、こんな意地悪さえも、愛おしく感じてしまう。
さっ、行こうか。と、前を歩き出す廣瀬さんの大きな手をひっぱって、優しく握りしめた。
諸星明日香
諸星明日香
私、まだちゃんと廣瀬さんに言えてないことがあるんです。
廣瀬一太
廣瀬一太
え...?
背伸びをして彼の耳もとに近づく。

ーずっと


ずっと、言いたかった。
彼に惚れた時から。









『一太さんが、好きです。』
その言葉を聞いた彼は赤面して、それから爽やかな笑顔を見せた。








~END~

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