翌日。
私は遊郭を出る支度を済ませると、遊女仲間の子や、今までお世話になった方に挨拶をした。
最後に女将の佐織さんと香純太夫に挨拶を済ませると、麻蔵遊郭の外に出た。
玄関を出ると、足を止めて遊郭を眺める。
最初は怖くてお稽古も上手くできなくて、大阪に帰りたいって何度も思ったなぁ。
泥酔したタチの悪い客が相手の日とか、いっぱい泣いた日もあったけど、その度周りの人に支えられて。
そんな島原が大好きで。
気づけば涙が零れていた目を、廣瀬さんは隣に来てそっと指で拭ってくれた。
私はすっと息を吸い込むと、頭を深く下げて涙声で叫んだ。
私達は手を繋いで、門を目指し再び歩き出す。
街には大きな門があり、県境の玄関口のような場所である。
そこへだんだん近づいていくと、何名かの男性の姿が。
こちらに向かってぶんぶんと大きく両手を振るハルくん。
呆れたように迷惑そうな眼差しでハルくんを見つめる出雲くん。
2人の掛け合いで、気恥しくなって手を離そうか迷った刹那、廣瀬さんはその手を離さないとばかりにぎゅっと強く握った。
ぱっと廣瀬さんの顔を見上げる。
彼は意地悪な笑みを見せてきた。
うぅぅ...ずるいよ...完全に私の反応を楽しんでるよこの人!!
そう言うと、しまは拳を前に突き出してきた。
私も拳を握りしめてしまの拳にコツンと合わせる。
しまと会えるのも、もしかしたらこれっきりかもしれない。
しまだけじゃなく、月宮団の人とも。
彼らが武士として生きる道を選んだ限り、明日も武士の誇りをかけて生きていられる保証はどこにもないからだ。
そうして大勢の人に見送られながら大門をくぐった私達は大阪へと歩き出す。
その言葉で一気に顔が熱くなる。
昨夜のことを思い出すだけでも恥ずかしいのに。
照れつつも彼の名前を呼ぶ。
その途端、強く抱きしめられた。
私が困っていると、廣瀬さんはゆっくり体を離して可笑しそうに声に出して笑った。
またやられた。
でも、こんな意地悪さえも、愛おしく感じてしまう。
さっ、行こうか。と、前を歩き出す廣瀬さんの大きな手をひっぱって、優しく握りしめた。
背伸びをして彼の耳もとに近づく。
ーずっと
ずっと、言いたかった。
彼に惚れた時から。
『一太さんが、好きです。』
その言葉を聞いた彼は赤面して、それから爽やかな笑顔を見せた。
~END~
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。