第17話

>>16
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2019/03/11 14:40
―夜の島原は昼とまるで違う顔を魅せる。

そして、身を売る遊女たちの気合いも当然のように変わってくる。

そんな花街・島原にある麻蔵遊郭あさくらゆうかくには一人面倒な客がやってきた。
小鈴
小鈴
明日香はん、大変や...
ある日の夜見世前の時間帯に私の部屋へ同じ遊女仲間の小鈴ちゃんがやってきた。

彼女は私より長くここで働いていて一応先輩遊女にあたる存在ではあるが、歳も大して離れていないから、とても仲良し。
諸星明日香
諸星明日香
どうしたん?顔色悪いけど...
小鈴
小鈴
藍木あいきはんや...藍木はんらがうちにやってきはった。
藍木...。

それは、この島原でも有名な厄介な客・藍木丹十郎のことだった。

酒癖が悪く、気に入らない店は一瞬で火をつけ金を巻き上げ荒らしたい放題にする田舎武士のこと。

それは誰にも止めることができなかった。

なぜなら藍木は月宮団の上役にあたる人物だったからだ。
下手に注意すると月宮団も潰されてしまう。
諸星明日香
諸星明日香
そこへ香純花魁の名代を任されたりしたの?
小鈴
小鈴
香純姉さんの名代やのうて、香純姉さんも私も呼ばれたんや。今夜あの人の座敷に行かなあかんよって
諸星明日香
諸星明日香
小鈴ちゃんも...
小鈴
小鈴
香純姉さんは藍木はんのこと慣れとるうえに実力もあらはるさかい、藍木はんは暴れはらへんと思うけど、私みたいなんが行ったら一瞬で...
小鈴ちゃんの声は微かに震えていた。
諸星明日香
諸星明日香
だったら...私も行くよ。
小鈴
小鈴
あんたはあかんよ!新造なんやし、怪我でもしたら...!
諸星明日香
諸星明日香
そんなん、小鈴ちゃんかて怪我したら台無しやんか!
遊女は身を売る商売。
少しでも欠けるとそれは商品ならず、処分される。

小鈴ちゃんは一人前の遊女で、私は見習いの新造。

この遊郭で1番怪我をしても大丈夫なのは私だ。
何かあったとき、小鈴ちゃんと香純さんを守るのは私の役目。
ーそして迎えた藍木との座敷。

私と小鈴ちゃんは懸命に舞を踊り、間違えないように三味線を弾く。
諸星明日香
諸星明日香
(お願い、上手くいって...!!)
1曲終わると、客席から拍手が聞こえてきて、ほっとする。


なんとか弾けた...。
ふと小鈴ちゃんの顔を見る。彼女もほっと安堵の表情をしていた。

藍木は1人だけではなく、何人かの部下の武士も座敷に呼んでいた。
諸星明日香
諸星明日香
(あれ...?)
その武士の中には、廣瀬さんの姿があった。

なんでいるんだろ...?

いや、きっと廣瀬さんのことだから歩兵頭並として参加している等の理由に違いない。
これも仕事なんだな...。
意外と大変そう...。
しばらく時間が経って、藍木はだいぶ酒に酔ってきた。
藍木丹十郎
おい!もう一曲舞って見せろ!
小鈴
小鈴
へ、へぇ
舞の途中で、藍木は口を出してきた。
藍木丹十郎
なんだ貴様!先刻からわしの顔色を伺ってばかりで気に食わんわい!
小鈴
小鈴
すっ、すんまへん!!
小鈴ちゃんは懸命に頭を畳に付けた。
香純さんも「藍木はん、許したってください」と何とか宥めようとするが、さかずきを持って地面に叩き割った。
藍木丹十郎
ええい!酒だ!酒を継がんか!何奴も此奴もつまらん女ばかりだ!
諸星明日香
諸星明日香
―小鈴ちゃん、どいて。
小鈴
小鈴
明日香はん...?
諸星明日香
諸星明日香
いいからっ
私はゆっくりと藍木の前にでた。
諸星明日香
諸星明日香
藍木はん、今度はうちが踊ります。
割れた盃の破片を拾いながらなんとか笑みを作って言った。
指先からは破片が刺さったのか、出血している箇所があったけど、気にならなかった。
藍木丹十郎
...ほぉーぅ。貴様、わしが怖くないのか。
諸星明日香
諸星明日香
もちろんどす。藍木様はうちの大切なお客様どす。藍木様なしでは武士の世は語れんでっしゃろ。
お世辞を言ってみせると、藍木は持っていた扇子でクッと私の顎を上げた。
藍木丹十郎
よくわかっているではないか。貴様、名はなんと申す。
諸星明日香
諸星明日香
明日香どす。
藍木丹十郎
明日香、か。その度胸なかなかのもんだ。ちと顔をよく見せろ。
そう言うと、藍木は私の肩を強く引き寄せて手を私の尻に触れる。
諸星明日香
諸星明日香
っ...
気持ち悪いうえに、酒臭くてたまらない。


と、そのときだった。
廣瀬一太
廣瀬一太
藍木さぁん、お酒注ぎますよー?
酒瓶を持った廣瀬さんが私たちのところへ来て、不敵な笑みを見せてきた。
藍木丹十郎
あぁ、気が利くな廣瀬―...
ポトポト...

廣瀬さんの持っていた酒は綺麗に藍木の頭にかかった。
小鈴
小鈴
―!!
廣瀬一太
廣瀬一太
あーあ、すみませーん、手が滑ってしまいました。
藍木丹十郎
...貴様...
藍木は殺気に満ち溢れていた。

私はキッと廣瀬さんを見て叫んだ。
諸星明日香
諸星明日香
せっかくなだめたのに!!!
私のその言葉から座敷は大変な騒ぎになった。

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