ハッピーはそっと叩き、少女を起こす。
バットは少年の周りをグルグルとまわる。
少女はゆっくりと瞼を持ち上げる。
少年は素早く起きて、周りを見渡す。
少女と少年は、数十メートルほど離れていた。
どこか寂しく、綺麗な無音の世界……。
口を動かすハッピーを見て、少女は勘づく。
”静かな訳では無い、聞こえないだけ”
ハッピーは少女を見て、何かを察したように紙に何かを書き始める。
(声が聞こえないんだよね?……ごめんね、現実世界で起こったことが夢の世界にまで影響されてしまったんだ。ほんとにごめんね…でも、もう君は一人じゃない。あの“少年”が君にはいるよ!)
ハッピーは少女の後ろを指差す。
少女はハッピーの指差す方へ振り向き、呟く。
「少年…あの時の少年……」
少女は思う。
“この懐かしさは何だろう”
その後、少女は少年と目線が合ったが、すぐに逸らしてしまった。
声が炭酸のように消えていこうとしていた……。
少年はすぐに“少女”を見つけた。
少年は、少女がまた消えてしまわぬように呼び止めようとする。
だが、それは叶わなかった。
「あ゛……っ……」
”声が上手く出せない“
少年は歩き出す。
その途端、少女も逃げるように歩き始めた。
同時に、少年は走り出す。
追いついた少年は、少女の肩を掴む。
「………!!」
少年は確信する。
“声がシュワシュワと溶けるように消えてしまった”
少年は思う。
“透明になってしまったみたいだ”
口を動かそうとする少年を見て、少女は伝える。
「私には声が聞こえない」
少年は、自分と似ている人が居たことが嬉しいのか、手を差し伸べる。
“この人なら裏切らないかもしれない”
と、少年は期待を抱くのだった。
ハッピーはそれを見て、少女に紙を渡す。
少女は紙をしばらく見つめ、悩んでいるようだった。
暫くして、少女は紙を少年に渡した。
少年はなぜ渡されたのか察し、書き始める。
(僕は声が出せない。君とたくさん話したい。頼む、一人にしないでくれ!)
少女はそれを読み、思う。
“この人は自分と似ているような気がする”
少女は少年に質問をする。
「私はこの世界から出たくない…キミは?」
少年の表情はガラッと変わった。
”僕は“
と書いて手が止まっている。
少年は考える。
ここから出れたとしよう。
母親は喜ぶだろう。
だが、また裏切られるんじゃないか。
このままだと、“母親が死んでしまう予感”がする。
こんなことになったのが悪い。
日常に戻れば全部解決するだろうか。
この綺麗な世界にずっと居たいけれど、一度、母親を安心させたい。
母親だけでも自我を取り戻してくれたことが何より嬉しい。
少年はしばらくして書き出す。
(僕は…一度、この世界から出たい)
少年は完璧に決断することが出来なかった。
少女は思う。
“この人は自分と違う。信用してはいけない…でも、逆らったら…またこの世界でも苦しむことになる”
「そうなんだ……。」
少女は本音を言うことが怖くなった。
その後、暫く沈黙が続いた。
沈黙をやぶり、ハッピー・バットは喋り出す。
「よし、そろそろゲームを始めようか!ルールは簡単。さっきそれぞれに今回最大のミッションを伝えたね?それはお互いバレてはいけない。バレると……少女からは友人を奪う、少年からは母親の命を奪うよ。ここは夢の世界。ここでは全てが可能となる。例として、炎を想像すれば炎が出てくる。基本のルールはこのぐらいかな……最初のミッションはドリームロボットを倒すこと!これを…どーしようかな…うーん…決めた!キツかもしれないけど、一体ずつ倒してもらうね。遠慮せず壊していいよ。この世界では死んでも無限に生き返ることが出来る。あとは、何か質問ある?」
少女は尋ねる。
「やりたくないと言ったらどうなるの…?」
バットはメモ用紙を少女に渡す。
“100回死ぬごとに友人を一人失う”
少年は思う。
“なら、この世界にずっと留まっていれば良い話じゃないか”
ハッピーは心を読んだかのように言う。
「この世界はいずれ、黒く染まり汚い世界になる。死にはしないが、永遠に一人だ!」
少年、少女は思う。
“逃げ道は無い”
『始めるよ、大丈夫?』
数分後、ハッピーは二人に尋ねる。
少年、少女は同時に頷く。
『どんな敵でも遠慮せずに倒してね……Ready GO!』
その言葉と共に、真っ白な世界がパネルのように崩れ、たくさんの色で溢れ始めた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。