水side
電車を降りると
外の空気が一気にこちらへ向かってくる
心配になって声に出してみたけれど
特に誰も答える事は無い
スマホの画面を何度も見ても
やっぱりここの駅だと表示されている
それを信じて少し間歩いた
色々な事を、考えながら
足を止めると、目の前に広がるのは大きな海だった
文通相手であり、兄のみこちゃんが高校2年生の時に、初めて学校をサボってここへ来たらしい
みこちゃんが高2って事は、こさめは4歳だから
もうそんな事は覚えていない
中学生くらいになってから、4歳のある日に急にこさめがスラスラと日本語を喋れるようになった事や、その事に気付きながら嘘をついていた事を教えられたが
その事もあまり覚えていなかった
だけど、こさめが「お兄ちゃん」ではなく名前呼びなのは
そういう記憶が関係しているんじゃないかって、勝手に思っている
名前が呼ばれて
そっちを向くと
癖のあるヘアピンを付けた人と目が合った
なつくんは笑いながら言った
馬鹿にしているのか、嘘をついているのか
多分「なちゅ!」って呼んでいたのも、その4歳の頃の話だと思う
こさめはその事を忘れてしまったと、もう何度も言っているのに
こさめは、4歳くらいに施設に引き渡された
5人の年の離れた兄が、仕方なく渡したらしい
多分訳ありだったんだろうなと、小さい頃から思ってた
だけど、ずっと文通をして
ずっと繋がってた
家族の溝は、まだ知らないけれど
愛されていると気付いていた
今日はこさめの、17歳の誕生日
待ちに待った、家族に会う日
なつくんはこさめの手を引いた
少し歩くペースが早くて
1歩踏み出す度に心臓がドキドキ動く
「家族」とは一体何か
その問いが、やっと解決するのだ
何人かの喋る声が聞こえる
なつくんの先には
暖かい空気が広がっていた
緊張気味な上
何もかも初めましてで全てが心配だった
話を振られると思っていなかった
こさめは今、何をしているのか、か
こさめのお皿の上の鮫は
思い返してみるとあの時描いてくれた鮫より躍動感があって美しい
そう言い、りんごジュースを置いてくれた
ジュースを持つ
こさめは施設に入った時からずっと
高校2年生の誕生日に、全てが明かされると言われていた
知らない人の知らない事実は
こさめの過去に多分
影響してるんだと思う
この5人の事を
こさめは深く知らない
だけど、これからゆっくり知っていこうと思う
何だか今は
それで、大丈夫な気がする
こさめは水を入れに行った
なつくんとみこちゃんも
向こうでテレビゲームで盛り上がっていて
その様子を見ると結構酔っている
らんくんは、水を渡した
らんくんは、振り向いてこちらを見た
らんくんは、正真正銘、こさめの兄で
こさめを含めた弟達の事を
命をかけて守ってくれた人
こさめの人生は、生まれた瞬間から心配まみれで、傷だらけだった
だけど、家に帰ればみんながいる
もう、きっと大丈夫
もう、きっと心配な事は無い
こさめは、小指を絡めて言った
あの日、電車で手を振った事も
あの日、家を飛び出して事実を伝えに行った事も
意味があったに違いない
あの一つ一つの物事が
今を作り上げているから
家族にあった真っ黒な出来事を超えた
これから始まる新たな幸せを
毎朝、同じ時間に
昨日と同じように手を振る日課がある
多分、明日も明後日も
貴方と目を合わせる度同じ事をするんだと思う
こさめを見ると貴方は笑顔になって
貴方を見るとこさめは笑顔になれる
魔法みたいに、いつもが変わる
それは変えられない事実で
この謎の関係も
永遠に続いていくような
そんな気がした
苦しくて、しんどくて
だけど
幸せな話だ
初めて会った君は、初めて会ったであろう俺に手を振った 終












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。