古びた部屋の前で手を振り、別れる2人
階段を降りようとするジミンの姿を見守るが、突然振り返り何かをいいたげな顔で戻ってくるジミン
あからさまに隠しているジミンに少し苛立ちもあるが、ジミンの言うことは正しいことが多い。
だから、僕は頷くだけだった
ガチャン
しっかり家の鍵をかけ、確認をすると
ドアに寄りかかりズルズルと音を立て床にペタンと座る
(今も声が…聞こえる)
少しだけ、少しだけだけど、ジョングクの声が心地よくて
名前を呼んだだけで胸が苦しくなった。。
怖いと思う自分もいるけど、初めて胸がきゅうってなったんだ
警告されたのにそんなことを考えてしまう
部屋でご飯を食べていると、テレビではアイドル達が新曲発表をしている。
1人ずつ、また1人と挨拶して……
なんて無意識に呟いた声は
床に落ちて、僕はそれに気づかなかった
ジョングクside
広々とした家に帰り、今日もいない唯一の家族の父に挨拶して、帰っても来ないのに少し期待をする
だが、最近父への関心がどんどん薄れていく
帰ってこない日も昔は寂しいなとは少し思ったのに
今や「1人って楽」なんて思い始めて
このまま家が僕のものになれば…なんて無茶な妄想をする
デカい冷蔵庫からお茶を取り出して、
ふと気づく
「失敗した」と思った
スマホを開いて、カカオを開く
大学で気づかなかったけど、大量の通知が来ている
まぁ、友人からならまだいいが、
こんな僕に寄り付くやつなんて媚び売るだけだし、友人と言ったらジニヒョンか、ユンギヒョンぐらい。
だから、この通知は全部……
「女」ばかり
毎日毎日
「いつ会える?」
「今日も遠くからでもかっこいいと思った!」
「大好き!」
なんて送って飽きない奴らって思う
好きになってもらえる訳でもないのに、よくやるよ
ポンポンと減らしてるうちに、ある一言に気がつく
「今日一緒にいたパーカーのひと誰?」
フリフリの服をアイコンにした、いかにも女子って子が呟いた一言
冷たく返信をし、ブロックする。
興味本位で近づいた相手キム テヒョン、彼もブロックした彼女達と同じだ。
僕は親父を超えることだけが生きがい
人を愛するなんて……
有り得ない
そして、今日も広くて冷たいベッドに1人眠る
ドンドンドンドンドン
また今日もドア越しにジミンの声が響いてる
目を擦るテヒョンを部屋へと押すジミン
大学の門の前で止まるテヒョン
「またね」と言って別れる
行くところを迷い地図を見るテヒョン
突然後ろから肩に手を回され、名前を呼ばれる
少し広い庭を歩き階段を降り、人気が少ない庭へ進む
噴水があるぐらいで特に何も無い庭
「ほら、ここ」
と白いベンチに腰をかける
テヒョンのパーカーの裾を引っ張り、飼い主にオネダリするように頼むジョングク
そんな押しに弱いテヒョンもあっさりと負けてしまう
ポケットからスマホを取り出して、ジョングクへ渡し
ジョングクは自分のスマホとテヒョンのスマホを弄り連絡先を交換する
渡されたのと同時にジミンからメッセージが届く
「今はどこにいるのー?」
「何してるー?」
と授業に飽きたのかこっそりメッセージを送っているジミン
「今は庭を散歩してる」
と嘘を送る
これがいけなかった。
テヒョンと言う愛に飢えた純粋な子にこんな〝特別〟なんて言葉をサラッと言ってしまう。
ジョングクは軽い言葉だと思い、言い慣れている為サラッと言ったつもりだろうが、
テヒョンにとっては
誰かの特別になれたそれ一言だけでも嬉しいのだ。
顔を覗きこもうとするジョングクと、耳まで赤らめるテヒョン
そう思い
テヒョンの灰色のパーカーに手を出す
バシッ
触れようとしていた手が勢いよく自分の体に帰ってくる。
手の甲はヒリヒリとしている。
なんだろと思い上を見ると、
「はぁはぁ」と息を切らしながら額に汗を垂らし、こちらを睨むジミンの姿があった
ずっと下を向いていたテヒョンも、ジミンの息と声に気づき顔を上げる
それと同時に、パーカーがズレて
パサッと音をたてながら顔が見える
思わず顔を隠そうとするが、間に合わなかった
ジョングクはテヒョンの顔に夢中になっているのだ
手を伸ばすジョングクにバシッと叩くジミン
優しいジミンの声が少し乱暴になる
それにテヒョンは少し肩をはねらせてその場に立つ
ベンチに置いたリュックを持ち、その場を去ろうとする
取り残されたジョングクはベンチから離れ宙を舞うリュックを掴み、テヒョンを見る
ねぇ、テヒョニヒョンは?
とジミンの回答を無視し顔を近づける
少しそれにびっくりし、後ずさりをするテヒョン
ジミンから出た〝親友〟の言葉に
ジョングクの〝特別〟という言葉とは違うが、すごく嬉しい気持ちになり、思わず笑みがこぼれる
それだけを言い残し、2人の間をわざと通り
階段を上がる
わしゃわしゃとイラつきながら髪を掻き回す
ジョングクの背中を目で追い、全く聞いていない様子に心配するジミン
自分でも、ジョングガは苦手だと思ってたけど
少し気になるんだよね
分かるんだよ?
遊び人なんだろうなって、でも……
僕なんかに〝特別〟なんて言ってくれたんだよ
胸がきゅうってなって、
嬉しいのに苦しかった。。
でも、嫌じゃなかった。。。
ジミンについて行き、あたりは薄暗い路地を通り進んでいく
人気のなさと何よりここら辺は治安が悪いとあまり人が寄り付かない場所
そんな場所をズンズンと進むにつれ、不安しかない
もしかして、怒ってどこかに拉致されるのでは?なんて変な妄想をし始めてしまう
ジミンが止まったのは人気はないが今にも潰れそうな様子はなく、一見普通のBARのような店
蛍光色の赤色を放ちジジッと電気の音を立てるBAR
毎日一緒にいるのに、ここで悩みや、愚痴を吐いているという事を嬉しそうに言うジミンにどこか
「僕に言えばいいのに」なんて嫉妬をする
BARの中はジミンの言う通り人は少ないし、音楽だけが鳴っていて、普通にいい雰囲気のBARだった
カウンターは狭く、中には背の高い男がグラスを拭いて、「いらっしゃいませ」と言う
嬉しそうにカウンターの男に駆け寄る
「友達?」
と首を傾げる男、暗くてよく見えなかったが顔つきが少し怖い。
イケメンなのは分かるが少し怖い……
ジミンに引っ張られ、まじまじと見られる
優しい声で恥ずかしげにぺこりと礼をする
それに対し人見知りが発動しまくりのテヒョンも礼を返す
「お前はテヒョンのなんなんだ」なんて笑いながら突っ込むソジュンに
「僕はテヒョンのガードマンだよ」なんて冗談なのか本気なのか分からない返しをする
フードから顔を出し思わず
「おぉ…」と声が漏れるソジュン
なんでもお見通しのジミンには口では敵わないと察したテヒョンは直ぐに白旗を振る
BARには3人しかいないけど、すぐにテヒョンもソジュンに懐き、3人で色んな話をしてあっという間に時間が過ぎていった
話しやすくて、ジミン以外に友達がいなかったテヒョンにとってソジュンは本当の兄のような存在に思えてきた
とハグをしながら話す2人
「やだなぁ」
とカウンターに寝そべりため息をつく
チラッとテヒョンの方に目をやるが本人は何も分かっていないようで、ソジュンから出されたプリンを食べながら
「ん?」
とキョトンとした顔で見てくる
思わずハイタッチする2人
こうして始まったジョングクを僕から引き離す作戦
でもこの作戦がまさか事態を悪化させるなんて
誰も予想出来なかっただろう
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。