莉音達は、学校の側に住んでいるという氷室の自宅に場所を移すことにした。
なんの変哲もない、マンションの一室だった。
リビングに通された四人は、ローテーブルの周囲にそれぞれ腰をおろす。
キッチンに向かいかけた氷室が、夢菜に振り返った。
リビングに戻ってきた氷室が、莉音達の前に座り直す。
曖昧な声を出した氷室は思案するふうに目を伏せ、片手で口許を覆った。次いで上目遣いで、莉音達を順々に見る。
少し迷い、莉音は彼に返答した。
氷室が眉根を寄せ、難しい面持ちをする。夢菜がおそるおそる尋ねた。
無言の末、氷室は顔を上げて一同に視線を滑らせる。
氷室の告白に、莉音のみならず夢菜や紅城、乃神までもが言葉をなくした。
これまで信じていたものが、常識が、一気にひっくり返された気分である。
四人の中で最初に言葉を取り戻したのは、乃神だった。彼はひたいに手をやりながら、氷室に問う。
氷室が首肯する。
また座り直した氷室が、落ち着きなさげに唇を舐めて湿らせ、いくらか視線を鋭くさせた。彼の緊張が、莉音にも感染する。
莉音達は互いに視線を交わし、そうして首を横に振った。
呟いて間を置き、氷室は暗い夜道を手探りで歩くような口調で、話し始める。彼は目線を宙に投じた。
氷室が口にした名に、四人が緊張して息を呑む。
苦しげに眉間にしわを刻み、氷室は続けた。
思わず、莉音はこぶしを握り締める。自分と同じ高校生の女子として、柊華香の最期はあまりにむごたらしく感じられた。
氷室はなにかに耐えるようにいったん目を伏せ、再び目線を上げて話を続ける。
眼差しを鋭くして、氷室が声を硬くする。
紅城の言いたいことがわからないはずはなかっただろうが、氷室は応えなかった。
氷室は苦笑する。
乃神が最後まで言うより早く、氷室が頷いて肯定した。
不意に、莉音はぞっとした気分になった。
これまで自分達は、学校に異変を持ち込んだものを守り神と信じて崇め、祀ってきたのである。
他でもない、それこそが学校に害を成す異形だったというのに。
気持ちがそうさせるのか、莉音は肌寒さを覚えて自身の腕を軽くさすった。
悪心はするものの、しかし、実際に連続自殺が止まったという話はやはり聞き流せないだろう。莉音は氷室に向き直る。
突然、夢菜が莉音の話を遮った。彼女は鋭い眼差しで、氷室を見つめている。
僅かに驚き、戸惑った様子で、氷室が夢菜に視線を返した。
目を見張り、氷室が固まる。莉音も驚愕して、友人を凝視した。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。