放課後の教室で、夢菜はそう愚痴を漏らした。
教室に残っているのは莉音に夢菜、紅城に乃神――いつもの四人だった。
ため息をつきながら、莉音は頷く。
最初の女子生徒が亡くなってからまだ一週間しか経過してはいないものの、怒涛の勢いで流れた日々はそれ以上の長さを莉音に感じさせていた。
紅城の声からは、いつもの勢いがすっかり失われている。
いささか言いづらそうに、乃神が述べた。
乃神の指摘に、紅城と夢菜が黙る。乃神は続けた。
呟いた直後、風に乗ってヒイラギさんの祠に飾られている風鈴の音が微かに聞こえてくる。
まるで返事をしているふうなそれに、四人はなんとなく、口を噤んでしまった。
四人だけの放課後の教室に、寂しげな清音が響く。
ふたりはそう言ったものの、語気は弱々しい。
紅城は荒々しく椅子から立ち上がった。
莉音も立ち上がろうとしたとき、乃神が窓の外を凝視しているのに気が付く。
莉音を一瞥した乃神が、無言で窓の外を指差した。
三人は、彼の示した先を見やる。教室の窓からは、学校の正門が確認できた。その陰に、ひとりの男の姿がある。
距離があるため詳細まではわからないが、どうやら顎ひげを生やした男性らしいことがわかった。そんな男性が、なにかを言いたげに学校を見つめているのである。見覚えのない男だった。
夢菜の提案に、莉音は驚いた。彼女は時折、大胆な言動をとることがある。
紅城と乃神が、信じられないものでも見るような面差しで夢菜を見た。
基本的に、夢菜には行動力が備わっている。つまり、彼女がここまで言い出したからには、莉音と紅城と乃神は夢菜についていくしかないのであった。
結果、四人はまるで忍者のような足取りで、正門へと向かうことになる――。
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正門に立っている男の背後から、夢菜は堂々と声を掛けた。男は目を丸くして驚きつつ、振り返って莉音達を見返す。
問われ、男は目をしばたたいてから、はっとして苦笑した。
夢菜は腰に手をあて、男を睨みつけている。それを認めて、男は自身の首の後ろを掻いた。
夢菜があまりにも直球な言葉を返しているので、莉音はふたりの会話をハラハラしながら聞いている。口を挟んでいない紅城と乃神も、同じような心境なのかもしれなかった。
ここで初めて、男が明確な躊躇を見せる。彼は言い淀んだ末に、四人に視線をやりながら訊いた。
男の意図がわからず、莉音達は互いに目配せをする。
男は視線をさまよわせて、声もなく唇を薄く開閉させた。言葉に迷っているのかもしれない。
しばらくそうしてから、彼は意を決したふうに顔を上げる。
相手の台詞に、莉音は息を呑んだ。思わず、男に身を乗り出してしまう。
彼は莉音を見返し、次いで窺うように他の三人にも視線をやった。夢菜が一歩前に出る。
男は微笑した。顎ひげや、どこか野性的な雰囲気が近寄りがたくあるものの、笑うと印象は和らぎ、莉音は我知らず彼への警戒心が薄らいでいる自分に気が付く。
男が掌を莉音に向けて、言葉を遮った。彼は笑みを消し、真摯な表情で告げる。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。