第110話

109.
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2021/02/28 15:01





普通に出勤して、


普通に仕事をこなす、


仕事に支障をきたすことも、


頭が働かないことも、


そんなことはひとつもなく、


何一つ変わったことは無かった


それなのに、


心の中にぽっかりと空いている穴


どこか抜けているようで、


どこか落ち着かない


それでも普通に時間は流れていく


みんなの前でもいつも通りだった


いつも通りジェシーと慎太郎のボケに頬を緩ませ


何一つ変わらなかった


昨日あんなことがあったくせに


もうこんなに笑って、


本当はさ、


それほどでもなかったりして、


そうだったら楽なんだけどな


それでも不意に思い出す彼の


表情、仕草、言葉、


脳裏によぎる度に会いたくて仕方なくなる


どっちだよ、


今頃どうしてるかな、


もう違う誰かに拾われてる?


もうその人と仲良くなってる?


私の事なんて忘れてる?


あんなに近くにいて


あんなに彼を知った気でいたのに、


何も知らない。


何も知らないし、何もわからなかった


名前だって、下の名前しか知らない


樹の過去も、人間関係も、


ましてや、好きな食べ物でさえ知らないかもしれない


私が知ってることなんて


所詮、誰にでもわかることしかない


こうしてみるとやっぱり哀れだ


別れ際の「大好きだよ」は、


少し期待してもいいのだろうか


それすら分からない


それとも今まで何度もおなじ「大好きだよ」を言ってきたのだろうか



『なんにも知らないじゃん、』



自分に呆れ、


ついそんな言葉が漏れる



ジェシー「え、?」

優吾「どうした、急に」

『え、?』

大我「なんであなたが戸惑ってんのっ」

ジェシー「DHAHA!!意味わかんねぇ!」

慎太郎「どうゆう状況?」



またまたカオスになってく中


隣に座る北斗がそっと私に近づく



北斗「大丈夫?」

『うん、ごめん』

北斗「あんま考えすぎんなよ」

『うん』



何とか笑顔を作り笑ってみせる



北斗「無理に笑わなくていいよ」



やっぱりダメだったか、


自分のことをわかってくれる人がいるだけで


こんなにも胸がいっぱいになるのに


私は樹にとってのそんな人になれただろうか、


なれたかなれてないかは別として、


なりたかったのは事実だった、


そして、きっとなれていないことも事実だった













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