第57話

56.
7,544
2020/12/27 16:02





ソファーに押し倒された状態のまま


目が合ったまま


沈黙が流れ


テレビの音だけがやけに大きく響く



樹「俺、わかんない」



意外な言葉に思考回路が止まる


逸らさず捉えたままの彼の目に


少しずつ涙が溜まっていくのがわかったから



樹「なんであなたがそんなに怒るのかも、なんで泣いてんのかも、全部全部意味わかんねぇっ、」



鼻をすする音が響き


また、息をする音がした



樹「だって、だってっ、、、」



2人の呼吸音だけが響いていた



樹「俺、あなたみたいなやつ、知らないからっ、、」



彼の瞳から落ちた涙が


クッションを濡らした



樹「あなたみたいに、こんなに守りたい、なんて思う人、初めてだからっ、」



ストレートな言葉に


また固まる体。



『樹、?』

樹「だからっ、教えて欲しい。あなたのこと。」

『え?』

樹「俺も全部受け止めるから、」



意外すぎる言葉に


ただただ言葉を失うだけだった



樹「それも、だめ?」



荒い呼吸を整えながら


澄んだ瞳が私を見つめる



『だめじゃない、』



私がそう返せば


そっと私の上に倒れ込んできて


ぎゅうっと抱きしめる



樹「これからも、ずっと、沢山教えて欲しい。」



照れくさくて言えないんだろう


クッションに潰されて


少し籠った声が聞こえる



樹「普通を、こんな俺だけど、そばにいて欲しい。」



ぎゅっ、と強くなる力に


「もちろん」という代わりに


私も強く抱きしめ返した


こんな、小さなぶつかり合いが


これからのふたりの


第1歩なような気がした












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