第31話

30.
8,369
2020/12/01 15:36





『ただいまぁ』



靴を脱ぎ綺麗に揃える


昨日まで考え込んでいたことが


馬鹿馬鹿しく思えるほど


体が軽かった


返事が返ってこないまま


ガチャッ、とリビングの扉を開ける


リビングの奥に立っている樹に


声をかけようとして


固まった。


昨日私があの広告をしまった場所


そして樹が見ているのは


それと全く同じもの



『樹、』



声をかけると


少し身体を震わせた後


ゆっくりと振り返る



樹「あなた、これ」



戸惑ったような顔でこっちを見ては


今にも泣きそうな顔をする


なんであの時捨てなかったのだろう


なんて、自分を酷く恨んだ



樹「嘘だよね、?」



樹の手から広告を取ろうと


手を伸ばせば


その手を避けるように


スっと手を引く樹



樹「俺、嫌だっ、ここがいい」



勘違いさせてしまっていることに


申し訳なくなるのと同時に


必死で「嫌だ」なんて言って


首を振る樹が可愛く思えてきて


思わず頬が緩む



『樹、』

樹「お願いっ、俺あなたがいいっ、」

『樹ってば』

樹「やだ、聞きたくない」



全く話の聞く気のない樹


手から広告を取り上げ


ビリビリに破る



樹「え、?」



次はきょとんとした顔で


私を見つめる樹


やっぱりわかりやすい


感情表現が忙しい人だな


そう思いながら


そんな彼に声を出して笑う



『そんな泣かないでよ』

樹「だって、」

『言ったでしょ。ここにいていいって』

樹「じゃあ、なんでそんなの持ってるの、」

『貰っただけ』



それだけ言って


バラバラになった紙切れを


ゴミ箱の中に突っ込んだ



『よし、ご飯にしよ』



そう言って樹の方へ振り返る


そんな私を見て


どんどんいつもの表情に戻ってく


安心したのか


嬉しそうに笑ったあと


ふわんっと私を前から抱く



『すぐ抱きつかないの』

樹「なんで」

『そう言うことは好きな人にするもの』



そう言って


樹の身体をそっと離す


口を尖らせる樹の顔を見て


クスッと笑ったあと


キッチンに立ち晩御飯を作り始めた


これからは2人分が当たり前になるんだろう
























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