第97話

96.
6,214
2021/02/15 15:42





明日こそは言おう。


そんなんを続けてまた今日が終わっていく


無駄に時間を潰し


家に帰れば


眠そうな樹が迎えてくれる



樹「おかえりぃ」

『寝てていいのに、』

樹「やだ」



これじゃ何も変わらないじゃん


そう思いながらも


そんな彼がたまらなく愛おしい


こっちが離れようとしてることを


察しているかのように


樹は日に日に私に懐いてきている気がする


初めからこんなはずじゃなかったのに


距離が近くなりすぎた


それを少し離すだけ。


そう思えば楽なはずだったのに、



樹「ご飯は?」

『食べてきたよ』



食欲なんかある訳もなく


何も喉を通らない


息をするように嘘をつき


樹の笑顔で満たしておく


お風呂から上がれば


机に顔を突っ伏して寝ている樹



『ごめん、』



そんな樹にブランケットをかけ


寝室に向かった


体を寄せあって寝る時間も、


好きじゃないと言えば大嘘になる


大好きだ。


樹の寝顔を見るのも


私を抱き枕かのようにして抱きつく樹も


朝、カーテンの隙間から漏れる朝日の中で


2人で笑い合う時間も


全部、全部、無くしたくない


樹が使う枕には


すっかり彼の匂いがする


いやでも思い出しちゃうじゃん


涙腺が脆くなりすぎだ


いつも北斗に怒られる


ジェシーにも毎日のようにいじられるようになった


それでも零れてくるのはしょうがない


どうしようもない感情を


どうしようも出来ないまま


夢の中へと入っていった


次の日の朝


隣には樹がいた


いつものように私を抱きしめて


起こさないように腕から抜け出した



「あなた、」



寝室を出ようとする私を


大好きな声が呼び止める



『ごめん、起こしちゃった?』

樹「声ぐらいかけてってよ」



まだ眠そうな声の彼に


ごめんごめん、と軽く謝る



樹「来て」

『もう行かなきゃ、』



必死な私に


関係ない。とでも言いたげな顔で起き上がる


私の目の前まで来て


何も言わずに抱きしめる



『離れて、』

樹「むり」

『樹ってば、』

樹「だから無理だって」



子供っぽい声が少し低くなり諦めた


出会った時から変わらない


彼の不器用な優しさ


感じる度に愛しさが増すばかりだったけど


今だけは、


欲しくないと思った



























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