第120話

119.
6,628
2022/06/23 13:55





いつもと同じ帰り道


とぼとぼと歩く私の横を通り過ぎていくバイク


鶯だった。


バイクの音を聞くだけで反応してしまう


もしかしたら、


なんて思って


鶯に戻ったかどうかも分からないのに


気づけば探してる自分がいる


そんな自分に呆れ


視線を落としてまた歩き始める



「久しぶり」



そんな私を高い声が呼び止めた


顔をあげれば知ってる女の人



「樹と離れてくれてありがとね」



何故か偉そうな態度はいつも通りで


人を見下すような目もいつも通り



『樹って、鶯に戻ったんですか?』



もう怖くなかった


普通の人と喋るように


普通にそんな質問をした



「は?そんなこと知ってどうすんの?」



また、人を貶したように笑い


私の顔を覗く



「あんたには関係ないよね?」



匂いがきつくてつい体を遠ざけた



『そうだけど、気になって、』

「は?」



さっきと打って変わって


声がうんと低くなる



「なに?何様のつもり?樹の何でもないくせに、調子乗ってることに気づけば?」



ガシッ、と頭を捕まれ


顔が近づく


また、キツい香水の匂いが鼻をついた



『そうだけどっ、あなたよりは樹のこと知ってると思うからっ、』


何も知らないけど、


名前も、居場所も、


呆れるぐらい何も知らないけど、


目の前にいるこの女よりは


樹のことを知ってる自信があった


なんの根拠もないけど


気づけばそんなことを言っていた


私の髪を掴む力が一気に強くなり


ドン、と体に衝撃が走る


地面に打ち付けられる私に近づき


胸ぐらを掴む



「ごめんけど今日返せないわ」



なんて、まるで感情の籠ってない顔でそう言う


それから、どこからか強い衝撃が降ってきて


目の前の彼女の不気味な笑顔と共に


意識を手放した






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