第105話

104.
6,416
2021/02/23 15:58





ただでさえ混乱してるのに


わざとなのか、


なんなのか、


思考停止状態から抜け出せそうにない


北斗を見たまま固まる私を見て


ため息を吐き自分の顔を抑える



北斗「ごめん、今じゃなかったわ」



それだけ言って立ち上がり


何事も無かったかのように


リビングに入っていく



北斗「お前食べてねぇじゃん、」



北斗に続いてそっとリビングに入れば


電子レンジの機械的な音が聞こえてくる



『北斗、』

北斗「なに」

『ごめん、頭が追いつかなくて、』



申し訳なさそうに下を向けば



北斗「嫌だったら突き飛ばして」



なんて、北斗らしい言葉と一緒に


視界が暗くなり


北斗の匂いがする


痛いぐらいだったけど


今はそれぐらいがちょうどよかった



北斗「全部知ってる。あなたが樹のこと好きなことも、俺じゃないことも、全部知ってた。」



聞きなれた落ち着くその低い声と


体温、鼓動、


崩れかけそうな私を


そっと支えてくれる



北斗「それでも俺は好き」



体が離れたかと思えば


いつもの笑顔でふにゃっ、と笑う



北斗「うわ、まじ俺だせぇ」



さっきまでの男らしい北斗とは違い


急に子犬のように小さくなって


けたけたと笑う



北斗「食べれる?」



気づけば温め終わってたおかずを取りだし


こっちを向いて聞いてくる



『手作り?』

北斗「おう、俺が作った」



どうだ、と言いたげな顔で


私に向かって親指を立てる北斗



『ふふ、じゃあ食べる』

北斗「なにそれっ」



何故か耳を赤くする北斗には


気付かないふりをした



北斗「どう?うまい?」

『うん、すっごく』

北斗「よっしゃぁ」



気づけば自然と笑いあってて


しばらくまともに食べてなかったせいか


嘘みたいに箸が進んだ


忘れちゃいけないのに


忘れたくないのに


脳は忘れようと必死だった


まだ受け止めきれてない自分が


少し逃げたくなったんだろう


今は一旦そうしておこう


どうせ明日には気づく


無くしたものが大きすぎたことに















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