第53話

52.
7,479
2020/12/23 16:06





だけど、


そんな簡単な世界ではない


逃げたら逃げただけ


あとから返ってくる


そう。


そして、それが今だ


バスを降りた直後


バス停の目の前には


何台かのバイクと


いかにも、といった感じの見た目の人達


なるべく避けるようにして


通り過ぎたつもりでも


そんな簡単に行くなら


これほど恐れられていない



「ちょっといい?」



カバンの紐を捕まれ


気づけばそのマークに囲まれていた


みんな揃って面白そうな


汚く、不気味な笑顔を浮かべている




『なんですか?』

「いや、わかってるでしょ」



キレ口調でぐいっと私の前に来た人


それは


紛れもなく前あったばかりの女の人だった


樹の、友達か、恋人か、


またはそれ以上の関係か、


逃げ続けてきたんだ。


どんな人で、どんな風に樹といたか、


そんなのわかる訳もなく


ただ、彼女の目だけを見た



女「樹は私のもの。勝手に取らないでくれる?」

男「おー。言うねぇ。」

男「だって、どーする?」



私と彼女の会話を楽しむように


茶化しながら


私の顔を覗き込む



『樹はものじゃないし、別に取ったわけでもないです。』



そう言いきったのもつかの間


パチン、という音。


ヒリヒリと痛む頬。


それを楽しむ笑い声。


一気に場の状況が変わった



女「あんたさ、鶯のこと舐めてんの?」



ゆっくりと頭を上げ、


もう一度彼女の目を見る


「舐めてないです。」


なんて言い返そうかとも思った


でもさすがに恐怖心というものが


無いわけじゃない


それぐらいの制御はできたものの



女「何その目」



そう嘲笑うように笑ったあと



女「こいつ、好きにしていいよ」



そう吐き捨てて


その輪から出ていく


残されたのは


嬉しそうに笑う男達と


私だけ。


逃げ方など、今更考えたところで


到底無理だ。


ごめん、樹


心の中でそうつぶやき


できる限りの反抗として


彼らを睨みつけた








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