第58話

57.
7,401
2020/12/28 15:34



樹side











初めからそうだった。


ウチくる?なんて言われて


変なやつだと思った


だけど、あそこで首を振っていれば


俺があの日凍え死ぬのは確定だっただろう


ただ、ついて行って


ある程度回復したら


またゴミみたいな生活に戻ろうと思ってた


なのに、


暖かすぎた。


俺の手を握るあなたの手も


優しく巻いてくれたマフラーも


ここにいていいよ、なんて言う言葉も


すべて、


こんな暖かいもの


俺は知らない。


今思えば鶯にいた理由なんて


ほとんどない


お金を稼ぐ上で


生きていく上で何かと役に立ったから


毎日遊んで


毎日汚いことばっかして


自分がどれだけ終わってる人間か


ふと、我に返ったときには遅かった


もう染まりきっていた俺は


辞める、なんて言ったところで


何も変わらなかった


いや、何も変わらないはずだった


なのに、あんなに優しくするから


あなたが俺に当たり前のように


優しく接するから


何もかもどうでも良くなった


ただただ、楽しくて


幸せで


それ以外の何物でもない日常が


当たり前になった


こんなにも綺麗で


こんなにも色鮮やかな世界が


あるんだと、


大袈裟って言うかもしれないけど


あんな世界で過ごしてきた俺にとって


あなたといる世界は眩しすぎた


朝、隣にある感触も


今まで異性と同じベットで迎える朝なんて


死ぬほどあった


毎日のように馬鹿みたいに遊んで


笑えてくるような過去で


溢れかえっているのに


あなたからのおはようと


重なる記憶はなかった


こんなにも幸せな朝は初めてだった


泣きたくなるぐらいの幸せを


毎日、毎日、


少しずつ俺にくれた


何も知らないこんな俺に。


そんなあなたは


俺にとって初めての存在だった




















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