第55話

54.
7,489
2020/12/25 16:23






「触んな」



鈍い音と共に


うんと低く


でも、大好きな声が聞こえる


体が開放されたかと思えば


真っ暗闇の中


鈍い音が何度も響く



『やめてっ、!!』



それがたまらなく嫌だった。


どれだけ私のためだとしても


守ってくれるためだとしても


これじゃ、何も変わらない


私を汚そうとした奴らと。


暴力はだめ、


綺麗事かもしれないけど


樹にはもう、


そんなことして欲しくなかった


同じだと思いたくなかった



『やめてっ、てば!!!』



私の声が届いた頃には


ほとんど手遅れだった


堪えていたはずの涙は


わけも分からず溢れ続け


顔はもうぐちゃぐちゃだった


泣き崩れる私を見たあと


そんな私にそっと近づき


両手で頬を掴む


無理矢理向かい合った顔は


心配してるのか、怒ってるのか、


それすらも分からなかった


肩を揺らし息を整えながら


私の頬をそっとなぞる樹


それから、体の向きを変え


少し離れたところから


驚いた顔をしながらたっている


女の人の元へゆっくりと向かう


だめ、


とめなきゃ、


樹はそうじゃない


お願いだから止まって、


そう祈りながらも


この場から動くことも出来ない


無力の自分に呆れた



女「なに、急に」



暗闇の中、


2人の声にそっと耳を澄ませる



女「なんであいつの味方すんの!?!!」



混乱した声が


うるさいほど響いた



女「なんであんなやつなの、意味わかんない!!!!」



ヒステリックに叫ぶ彼女の


胸ぐらを樹が掴む



樹「次あなたに手出したらぶっ殺す」



そんな乱暴で低い言葉が


静まり返る夜に響いた


彼女の服から手を離したあと


私のとこまで来て


抱きしめようとした、


手を、私が払い除けた


わがままが過ぎるかもしれないけど


自分勝手だって言われるかもしれないけど


それでも嫌だった


その場で立ち止まった後


1人で家までの道を歩き出す


その後ろに黙ったまま


そっとついて行くだけだった




































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