第52話

51.
7,584
2020/12/22 16:11





それから


一方的に話を遮り続けた


最低なのはわかってる


でも、そうしたい自分が勝ってしまった


だからと言って


2人の距離が大きく変わったわけでもなく


今日もいつもと変わらず


キッチンに立つ私にくっついてくる樹



『危ないよ』

樹「知ってる」

『じゃあ、離れて』

樹「なんでそんなに冷たいの!」

『ちょっ、あぶな、』



ぎゅう、っと抱きしめるのと同時に


私にもたれ掛かる樹


よろけそうになったのも


きちんと支えながら


私からは離れようとしない



『樹、他の子にはこんな簡単にくっついちゃダメだよ?』



目線は手元に向けたまま


私の首元に顔を埋める樹に


そんなことを言う



樹「しないよ。あなた以外いねぇんだから」



少し声のトーンが下がる


それに何故か嬉しい自分がいた



『嬉しいこと言うじゃん』

樹「なんだよ」

『そんなこと言われたら守りたくなっちゃうね』

樹「ん、?」



首を動かし振り向けば


どうゆうこと、?


なんて言いたげな顔と目が合う


そんなとぼけた顔に


くすくすと笑ったあと



『はい。出来たよ、置いて』



と言っておかずが盛り付けられたお皿を渡す



樹「ん、」



私からお皿を受け取ると


すっ、と離れそのまま机の方へ


冷蔵庫からお茶を取りだし


私も席について2人で手を合わせた


こんな朝にもだいぶ慣れてきた


普通が変わるのは嫌いじゃない


手早く皿を片付け洗う



樹「手伝う」

『ほんと?ありがとう。』

樹「ん、」



私からお皿を受け取ると


また水の流れる音がする


洗い物を樹に任せ自分の用意へ


さっと髪をたばねて薄く化粧をする


リビングに戻る頃には洗い物が終わっていた



『ありがとう樹、行ってくるね』



そう言ってカバンに手を伸ばす


その手を樹が掴む



『、どーした?』



私の問いかけには答えず


ぐいっと腕を引っ張り


私を抱き寄せた



樹「守るのは俺の方な」



それだけ言って


そっと体を離す



樹「それぐらいはさせて」



不器用な彼の優しさに


ありがとう、と言う代わりに


ニコッと笑っておいた



樹「ん、じゃ、それだけ。行ってらっしゃい。」



それからゆっくりと家を出た


もう今日は遅れてもいいや


そんなことすら思う朝になった


まだ、ニヤケが止まらない自分に


馬鹿じゃないの、なんて


喝を入れておいた
















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