第6話

5.
11,319
2020/11/14 11:50





隣の彼をもう一度見やると


なんとも言えない顔で


外を見ていた


相変わらず首元を手で覆ったまま


そんな彼を見て


自分の首に巻かれているマフラーを取り


彼の首に巻いた


きちんと首のマークが隠れるように、


驚いた顔で私を見る彼に


何も言わずにニコッとだけ笑っておく


なんで彼を拾ったのか、


そう聞かれれば


単なる同情に過ぎなかったのかもしれない


今考えれば


2人分の生活費を賄っていくほどの


お金がある訳でもなく


勢いに任せて拾ってしまったのも確かだ


これからどうしようか


最悪の場合


施設に預ける。


なんて決断に至ってしまうかもしれない


拾っておいて無責任な、


なんて言われるかもしれないけど


事実は事実だった


とりあえずはうちに帰ろう。


それが今できる決断だった


バスに流れる機械的な声に


横のボタンをピッと押した


まもなくバスが止まると


「到着しました」という声と共に


扉が開く



『降りるよ』



そう声をかけ席を立った


それと同時に


また、ニットの裾を引っ張られる


驚いて振り返ると


どこか不安そうな顔が


私を見つめていた


少し呆れ気味で笑ったあと


きちんと彼の手を握る


運転手にペコっと頭を下げ


バスをおりた


外はさっきよりも冷えていて


マフラーもコートも貸していたから


余計に寒かった


無意識にぶるっと体が震えてしまう



『寒いね、早く帰ろっか』



そう言って振り返るのと同時に


私の首元が暖かくなる



『いいよ、してて』



そう言って


不細工な形に巻かれたマフラーを取ろうとすれば


「いい」なんて言って


私を止める


そんな彼を見て


クスクスッと笑ったあと


2人で並んで家へ帰った









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