中央広場で合流した冴羅たちは今、花園エリアに来ていた。
柊也君によると、家族エリアでユリちゃんとは遭遇していなくて、その上中央広場にユリちゃんが来たということもないんだって。
そして、自然エリアは冴羅が爆破した。
だからわくわくエリアか花園エリアの二択で、花園エリアを選んだんだ。
早くユリちゃんに会いたいなぁ。
急に落ち着いた声音になったことに驚いたのか、それとも話の内容か、柊也君は少しだけ瞳を揺らした。
そう言いながらも、ユリちゃんを見つけるべく辺りを見回しながら歩く。
するとまた、一つの花に視線がいった。
冴羅が少し薄い紅色の花を指差すと、柊也君は少し考えてそれに答える。
柊也君が少しだけ期待した眼を向けてくれる。
あまり人の話に興味を示してくれなさそうな子だから、ちょっと嬉しかったり。
突然話を遮られて、驚きながらも声の主を求め後ろを振り返る。
……そこには、ニコニコとユリちゃんが立っていた。
柊也君は警戒心を強めて後ろに下がり、冴羅はスケッチブックを開き鉛筆を握った。
ユリちゃんは見る限り皮肉無しに言ったので、とりあえず怒るのはやめとする。
底の見えない笑顔で、ユリちゃんはそう言った。
『最後の晩餐』
レオナルド・ダ・ヴィンチによって描かれた作品の一つ。
イエス・キリストと12使徒が集まり、その名の通りキリストの最後の晩餐が行われている場面。
「12使徒の中の一人が私を裏切る」とキリストが予言した時の情景が描かれている。
その“裏切り者”が、キリストの言う通り、12使徒の「ユダ」という人物である。
話を振ったのはあなたですけど、と溜息を吐く柊也君を横目に、冴羅はスケッチブックに閃光弾を描く。
そして閃光弾を具現化させ、柊也君とアイコンタクトを取り頷き合う。
閃光弾をユリちゃんに向かって投げ、その閃光弾が光を放っているうちに元いた場所から移動し柊也君の能力で冴羅たちの姿を消す。
閃光弾が発光を終えると、ユリちゃんは目をゴシゴシと擦っていた。
ユリちゃんはプンプンと頬を膨らませる。
その間に、冴羅は手榴弾や拳銃、ナイフを具現化、柊也君はそれをユリちゃんの視界から消す。
ユリちゃんの色覚を操っているだけなので、柊也君は普通に見えているから大丈夫。
柊也君が小声で冴羅に耳打ちし、冴羅はそれに頷く。
……さぁ、ユリちゃん。
その実力、冴羅に見せてよ。
そうしてユリちゃんに拳銃の銃口を向け、少しだけ下唇を舐めた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。