第25話

XXの真偽 Ⅲ
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2020/03/17 15:25
彼女ユリの「始めっ!!」という声と同時に、僕は高層ビルの屋上に送り出された。
四月一日わたぬき 柊也とうや
いてて‥‥
最後には乱暴に投げ出されたので、そういう所は本当に彼女らしく適当だと思う。

僕は立ち上がり、屋上の隅へと歩く。
そして屋上のフェンスに手を掛けて、人気がなく異様に静閑とした街を見下ろした。

─────すると、耳のそばから掠れた音が聞こえた。
代々木よよぎ あかつき
『あー、あー、代々木です。聞こえてマスカー。』
二つ、彼女から受け取った物があった。
一つはここら辺一帯の地図マップ

そしてもう一つは、トランシーバーと専用のイヤホンだった。
どうやらそれで同じチームの人とのコンタクトを取るらしい。
四月一日わたぬき 柊也とうや
四月一日です。聞こえてます。
碑賀ひが あずま
『碑賀。聞こえてる。』
僕はトランシーバーをポケットから取り出し、代々木先輩らしき声の人に応答をする。

碑賀先輩らしき声の人も、それに応答した。
代々木よよぎ あかつき
『二人とも無事で何より。突然だけど君ら今どこにいる?』
刑事ドラマとかでよく見るトランシーバーと、よく聞く掠れた音。
僕の中で少し緊張感が走った。
碑賀ひが あずま
『俺は‥‥地図によると、毎宝まいほうビル?って所の地下三階。』
代々木よよぎ あかつき
『四月一日は?』
四月一日わたぬき 柊也とうや
えっと‥‥
辺りを見回し、地図と今いる場所との焦点を合わせる。
四月一日わたぬき 柊也とうや
ピークトランビルの屋上‥‥だと思われます。
碑賀ひが あずま
『そう言う代々木はどこに?』
代々木よよぎ あかつき
『俺は最初の交差点。何故か飛ばされなかった。ユリはどっか行ったからいないよ。』
その言葉を聞いて、成瀬さんにぬいぐるみを押し付けられていた時の代々木先輩の顔が浮かぶ。
きっと今、その時みたいな困った顔をしてるのではないだろうか。
代々木よよぎ あかつき
『にしても厄介だな‥‥地図見ると、俺、碑賀、四月一日の三人で完全に散らばってる。』
代々木先輩にそう言われ、僕は再び地図に視線を移す。
そして、内ポケットに入っていたペンを取り出して代々木先輩と碑賀先輩の今いる場所に点を打つ。
四月一日わたぬき 柊也とうや
遠くはないですけど‥‥合流するとなると敵チームに遭遇する可能性大ですね。
僕はそう言いながら、手で縮尺を図った。
碑賀ひが あずま
『とりあえず代々木はどこか見つかりにくい所に移動した方が良いだろうな。交差点は見つかったら流石に危ない。』
代々木よよぎ あかつき
『りょーかい。移動したらまた連絡する。』
四月一日わたぬき 柊也とうや
じゃあそれまで作戦を考えてます。
碑賀ひが あずま
『四月一日に同じく。』
碑賀先輩の声を境に、イヤホンからの掠れた音は聞こえなくなった。

さて、どうするか‥‥‥

相手チームのレア能力保持者が二名に対し、こちらは碑賀先輩ただ一人。
しかも、レアでなくとも国木田先輩は代々木先輩と引き分けだった。
四月一日わたぬき 柊也とうや
僕は完全なる足手纏い、か‥‥‥
何の感情も無く、ぽつりと呟く。

僕が足手纏いなのは確かだが、今はそれに嘆く余裕なんてない。
足手纏いになることを嘆くよりどうしたら足手纏いにならないかを考えろ。

僕は、こんな所で死ぬなんて御免なんだ。

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