彼女の「始めっ!!」という声と同時に、僕は高層ビルの屋上に送り出された。
最後には乱暴に投げ出されたので、そういう所は本当に彼女らしく適当だと思う。
僕は立ち上がり、屋上の隅へと歩く。
そして屋上のフェンスに手を掛けて、人気がなく異様に静閑とした街を見下ろした。
─────すると、耳のそばから掠れた音が聞こえた。
二つ、彼女から受け取った物があった。
一つはここら辺一帯の地図。
そしてもう一つは、トランシーバーと専用のイヤホンだった。
どうやらそれで同じチームの人とのコンタクトを取るらしい。
僕はトランシーバーをポケットから取り出し、代々木先輩らしき声の人に応答をする。
碑賀先輩らしき声の人も、それに応答した。
刑事ドラマとかでよく見るトランシーバーと、よく聞く掠れた音。
僕の中で少し緊張感が走った。
辺りを見回し、地図と今いる場所との焦点を合わせる。
その言葉を聞いて、成瀬さんにぬいぐるみを押し付けられていた時の代々木先輩の顔が浮かぶ。
きっと今、その時みたいな困った顔をしてるのではないだろうか。
代々木先輩にそう言われ、僕は再び地図に視線を移す。
そして、内ポケットに入っていたペンを取り出して代々木先輩と碑賀先輩の今いる場所に点を打つ。
僕はそう言いながら、手で縮尺を図った。
碑賀先輩の声を境に、イヤホンからの掠れた音は聞こえなくなった。
さて、どうするか‥‥‥
相手チームのレア能力保持者が二名に対し、こちらは碑賀先輩ただ一人。
しかも、レアでなくとも国木田先輩は代々木先輩と引き分けだった。
何の感情も無く、ぽつりと呟く。
僕が足手纏いなのは確かだが、今はそれに嘆く余裕なんてない。
足手纏いになることを嘆くよりどうしたら足手纏いにならないかを考えろ。
僕は、こんな所で死ぬなんて御免なんだ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。