青峡高校で笧三を待つこと数分。
何となく遠くを眺めていると、遠くの空に人らしき影が現れた。
地図を見ると、恐らくあそこは駄菓子屋の上空だ。
その影は数秒後に下へと落ちたので、あれは呉が大きくジャンプしたのだと知る。
恐らく俺たちの居場所を気付かれた。
俺がトランシーバーに話しかけると、ザザッという雑音と共に笧三の声が聞こえた。
俺らの会話はどこかの映画で見たような諜報員たちの会話みたいで、きっと辻が聞いたら「格好いいですね!!!!!」とか大声で言ってきそうだなと思った。
そこでまたブツッと音が途切れる。
作戦開始で動き出した笧三よりも先にここへ着く可能性がある‥‥‥のはやはり敵チームは合流して駄菓子屋にいたか、それよりも先に誰かが俺の近くにいたかの二択。
笧三がいた場所よりもはるかに駄菓子屋の方がここと近いし、決して笧三が移動速度を緩めたわけでもないからだ。
笧三は東の方角から来るから、敵チームとは真反対。
だから‥‥‥そうだな。西の方角に警戒を強めよう。
そう思って、俺は西の方角に体を向け─────
ドン、と鈍い音と共に聞こえたのは刃物の音。
突然のことで少し理解に遅れたが、どうやら呉さんが俺に突撃してきたらしい。
何故多岐からの連絡が来なかった?
何故刃物の音がした?
何故、何故‥‥‥
と頭が混乱しながらも、俺は結界を作る。
すると、脇腹に激痛が走った。
恐る恐る自分の脇腹を見てみると、小さなナイフが容赦なく刺さっていた。
俺は脇腹を押さえると、トランシーバーを手にする。
笧三に言われ、俺は呉の足に目を落とす。
‥‥‥‥靴を履いていない。
俺はトランシーバーをポケットに戻し、呉に向き直る。
呉はまだ戦闘態勢で、いつ攻撃してくるか分からない。
俺の脇腹に刺さるナイフは、途中で店から取ってきたのだろうか。
痛い。血が止まらない。
西の方から走ってきた楠木は、俺を見てにやり、と笑った。
すると突然、俺の血が動き出す。
あ、これ、もしかして────────
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!