第52話

XXの時間 Ⅲ
74
2020/08/15 12:03
カンニングゲーム、開始30秒程度。
もうこの時点で俺は気付いてしまった。

────このテスト、クッッッソ難しい!!!

は?え、何?ユリのあの「すっごい簡単!」発言は何だったの??
俺の幻聴?…なわけないよね??

捺祢が応用の応用とか何とか言ってくれなければもっと絶望していた気がする。
しかも捺祢監視の下だったからかまだ解ける方になっている。

よかった、ほんとうに、捺祢いて、ほんとうに、よかった。
千島ちしま 瑞樹みずき
…後でお礼言おう。
俺はそこで気持ちを切り替え、再び問題に集中する。
すると、右隣の龍からツンツン、と肩をつつかれた。
瀬戸口せとぐち りゅう
おい、瑞樹。
千島ちしま 瑞樹みずき
今から俺は集中モードなんだよ。というかテスト中だろ俺ら。話しかけんなよな。
瀬戸口せとぐち りゅう
いや、そうじゃなくて……あれ。
龍はそう言って自分の前、つまり俺の右斜め前の席を指差す。
その席には代々木先輩が座っていたはず。

代々木先輩がどうしたんだ…ろ……う…
千島ちしま 瑞樹みずき
……
千島ちしま 瑞樹みずき
…あれはどう見ても寝てるよな?
瀬戸口せとぐち りゅう
ああ…瑞樹もそう思うか。てっきり俺の幻覚かと。
そして、少しの沈黙。
千島ちしま 瑞樹みずき
……起こすか?
瀬戸口せとぐち りゅう
いや、大丈夫じゃねぇかな。
机に突っ伏す代々木先輩を見つめ、龍はそう言う。

起こさないということは見棄てるということだろうか。
それとも、龍は何かを予測して…
千島ちしま 瑞樹みずき
まぁ、緊張感ある時に寝られるってことはその余裕を作る何かがあるんだろうな。
瀬戸口せとぐち りゅう
だな。
龍が頷いて、一通り“代々木先輩寝落ち案件”の話が終わった。

そして、今度こそ集中するぞ、と俺はまた机に向かう───と、同時に。
ガタンと席を立つ音が聞こえた。
それも、俺の後ろから。

いや待て。俺の後ろは呉さんだぞ。
呉さんはカンニングに長けた能力も持っていない。
学力はまだ知らないけど、それにしても早すぎる。

あぁ、もしかして消しゴムが落ちたから拾うだけとか……
くれ 葉月はづき
ふぅ、終わったぁー。
とても小声だが、確かにそう聞こえた。

そうですよね。消しゴム落ちた音なんてしませんでしたものね。
ユリ
はいはーい!終わったら遠慮なくこっち来てね~。
くれ 葉月はづき
はーい!
呉さんは俺の横を通り過ぎ、教卓へ向かってゆく。
呉さんが開始早々テストを解き終わったことを少し疑問に思いながら、俺はまた机に向かった。

そして数分後。
ユリ
は~い!葉月ちゃん合格!
その言葉に、俺は思わず手を止める。
千島ちしま 瑞樹みずき
…今ってさ、開始から10分くらいだよな。
瀬戸口せとぐち りゅう
……間違いなく10分だな。
千島ちしま 瑞樹みずき
この問題を開始10分で解ける奴、普通の高校生にいるかな。
瀬戸口せとぐち りゅう
……いないだろうよ。
千島ちしま 瑞樹みずき
……
瀬戸口せとぐち りゅう
……
千島ちしま 瑞樹みずき
……やめよう、考えるの。
瀬戸口せとぐち りゅう
……そうしよう。どうせ終わらせて聞けば分かる。
千島ちしま 瑞樹みずき
そうだよな。うん、早く終わらせよう。
瀬戸口せとぐち りゅう
おう。
そうして、“呉さんの解答スピードが速すぎる案件”の話は終了した。

開始から10分。
まともに集中したように思えないのは、多分きっと恐らく気のせいだ。

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