カンニングゲーム、開始30秒程度。
もうこの時点で俺は気付いてしまった。
────このテスト、クッッッソ難しい!!!
は?え、何?ユリのあの「すっごい簡単!」発言は何だったの??
俺の幻聴?…なわけないよね??
捺祢が応用の応用とか何とか言ってくれなければもっと絶望していた気がする。
しかも捺祢監視の下だったからかまだ解ける方になっている。
よかった、ほんとうに、捺祢いて、ほんとうに、よかった。
俺はそこで気持ちを切り替え、再び問題に集中する。
すると、右隣の龍からツンツン、と肩をつつかれた。
龍はそう言って自分の前、つまり俺の右斜め前の席を指差す。
その席には代々木先輩が座っていたはず。
代々木先輩がどうしたんだ…ろ……う…
そして、少しの沈黙。
机に突っ伏す代々木先輩を見つめ、龍はそう言う。
起こさないということは見棄てるということだろうか。
それとも、龍は何かを予測して…
龍が頷いて、一通り“代々木先輩寝落ち案件”の話が終わった。
そして、今度こそ集中するぞ、と俺はまた机に向かう───と、同時に。
ガタンと席を立つ音が聞こえた。
それも、俺の後ろから。
いや待て。俺の後ろは呉さんだぞ。
呉さんはカンニングに長けた能力も持っていない。
学力はまだ知らないけど、それにしても早すぎる。
あぁ、もしかして消しゴムが落ちたから拾うだけとか……
とても小声だが、確かにそう聞こえた。
そうですよね。消しゴム落ちた音なんてしませんでしたものね。
呉さんは俺の横を通り過ぎ、教卓へ向かってゆく。
呉さんが開始早々テストを解き終わったことを少し疑問に思いながら、俺はまた机に向かった。
そして数分後。
その言葉に、俺は思わず手を止める。
そうして、“呉さんの解答スピードが速すぎる案件”の話は終了した。
開始から10分。
まともに集中したように思えないのは、多分きっと恐らく気のせいだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。