赤く轟々と燃える炎を見て、俺は嘆声をの声を漏らす。
このままでは自分が本能寺の炎に灼かれてしまうことを察知し四月一日の腕を掴んだ俺は、自身の能力で空へと飛ばしたドラゴンに掴まり空へと逃げた。
炎は空へは届かず、俺と四月一日は無事なのだが‥‥‥
四月一日は心配そうに俺を見上げる。
そうですか‥‥とあまり腑に落ちなさそうな顔をして目線を地上の炎へと戻す四月一日。
そんな四月一日を見て、俺は「これ、いつまで持つかな‥‥」とぼやいた。
炎を逃れる為に四月一日の腕を掴んだのはいいものの、長時間片手で男子高校生を持っていられるわけがない。
ユリ、はよ来い。そろそろ腕がもげ始める。
こいつ、心を読んだのか?
そう思わずにはいられないユリの登場に、俺は目を見開いた。
近くのビルの屋上から話しかけるユリは、語尾に星でも付きそうな喋り方をする。
ユリはそう満足そうに笑って、一度だけ手を叩いた。
そして、俺らは競技場へと一瞬のうちに戻った。
俺が競技場に戻った途端に飛び出してきたであろう冴羅は、俺の腰に腕を巻き付けながら俺を見上げた。
その顔は、怖いほどにきらきらした笑顔。
こんな顔をする少女は、躊躇なく街に隕石を落としたとんでもない奴だ。
あぁ‥‥‥俺、冴羅の所為で天才が苦手になるよ。きっとね。
ニヤニヤと笑う冴羅の腕を腰から剥がした俺は、何食わぬ顔で冴羅の頭に手を置いた。
俺はそれだけ言って席に戻ろうと歩き出す。
その隣を、後から追いかけてきた冴羅が嬉しそうに歩いた。
俺は苦笑する。
チームで一番年上の俺が、誰よりも早く離脱したんだ。少しくらいはプライドに傷が付く。
ざわざわとした競技場内の空気を断ち切るように、ユリの声が響く。
あ‥‥そうだ。まだ残っていることがある。
ユリは楽しそうに、けれど不気味に、ニッと笑う。
あぁ、嫌いだ。あの笑顔。背筋が凍るような、不気味な笑顔。
俺はそう思って溜息を一つ零し、さっきから嬉しそうにして表情を変えない冴羅と、一緒に席へ戻ったのだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!