ユリが試合開始の合図をしたのと同時に、俺はドラゴンのぬいぐるみで攻撃を仕掛ける。
東堂を狙ったのは純粋に、近かったからだ。
それに、深海は能力で何とか対処できてしまいそうだし、本能寺はしぶとく反射神経も良さそうだったのもある。
敵は勿論、味方も驚いていた。
まぁ‥‥未来予知ができる碑賀は例外だが。
地上に降りると、耳元から四月一日の声が聞こえた。
俺は地図を確認しつつ、口を開く。
全員の場所を確認しこれからをどうするか考えていると、碑賀が躊躇いもなく口を開いた。
碑賀の口数の多さや、人を褒めることがあるのかとか、少し意外性のある発言に驚く。
それに、話せなくなる、とは‥‥?
自分の声が聞こえたら盗み聞きにならないから、「話せなくなる」ということか。
すると碑賀は、「問題ない。」と言ってそれきり反応はなかった。
俺はまた地図を確認する。
ここから碑賀のいる七佐ビルはさほど遠くはないが、四月一日のいる三冠デパートの方が明らかに近い。
合流するのであれば、四月一日が先になるだろうか‥‥‥
けど、二人揃った所で深海に対抗できる気がしない。
四月一日は色覚操作だけど、周りを凍らされては意味が無い。
俺はそもそも本能寺ほどの火力を出せないから、きっと鎮火される。
まぁ所詮ぬいぐるみだし‥‥‥
‥‥‥そういえば、デパートって‥‥‥うん。あるよね。
俺はそう思い、トランシーバーに話しかけた。
俺がそう言うと、イヤホンから間抜けな声が聞こえてくる。
「良いですけど‥‥」と腑に落ちなさそうな四月一日に、俺はお使いの内容を告げる。
四月一日の強気な発言に少し笑いつつ、俺は「じゃあよろしく。」とだけ言ってトランシーバーをポケットにしまった。
今度こそ、勝てると良いけど。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!