第12話

XXの開花 Ⅷ
210
2019/12/31 14:21
呉さんは元気に席を立って、フィールドへと向かう。
相手側はあの辻君と同じ学校らしいが、国木田先輩の時の様な声援はなかった。
音羽おとは 捺祢なつね
呉葉月は‥‥えっと‥‥‥体育。
音羽おとは 捺祢なつね
笠木かさきまさるは風かな。
捺祢は溜息を吐きながら頭を掻く。
音羽おとは 捺祢なつね
‥‥第四試合、呉葉月 対 笠木勝。
音羽おとは 捺祢なつね
試合開始。
試合開始の合図と共に、競技場全体に風が吹くような感覚がした。
呉さんの相手から風が流れていくような、そんな感覚。
本能寺ほんのうじ 千早ちはや
痛っ‥‥‥
千早は何故か痛みを感じたらしく、頬を押さえていた。
あれは‥‥‥切り傷、だろうか。
鎌で斬られたような切り傷。

何で頬なんかに‥‥‥
千島ちしま 瑞樹みずき
千早‥‥‥大丈夫か?
俺がそう言って千早の頬に手を伸ばすと、千早は俺の手を払った。
‥‥‥少しじんじんする。
本能寺ほんのうじ 千早ちはや
大丈夫だから。心配なんてしなくても良い。
千島ちしま 瑞樹みずき
無理。
本能寺ほんのうじ 千早ちはや
即答‥‥
千島ちしま 瑞樹みずき
しょーがないだろ、心配するもんは心配するんだからさ。
俺はそう言って、一霖に声を掛ける。
福冨ふくとみ 一霖いちりん
ご所望の物はこれですか?
一霖はにししと笑って絆創膏を差し出してくれた。
千島ちしま 瑞樹みずき
おう、よく分かってるな一霖。サンキュ。
隣から「一霖の女子力パネェ‥‥」なんて慎の声が聞こえたが、それは無視しておこう。
千島ちしま 瑞樹みずき
ほれ、絆創膏。貼っときな。
千島ちしま 瑞樹みずき
一霖に感謝しろよな~?
俺は千早に絆創膏を渡して──正確には押し付けて──笑った。
本能寺ほんのうじ 千早ちはや
馬鹿じゃないの‥‥‥
と言いつつ絆創膏を素直に貼ってくれている千早を少し横目で見た後に、フィールドへと視線を戻した。
くれ 葉月はづき
た、体育って何~!?
そこには、逃げ回る呉さんがいた。
相手は最初の位置から全く動く様子はなく、呉さんの方に手を向けている。

一見、何も起こっていなさそうに見えるこの試合。
けれど呉さんの顔や足、手‥‥‥と肌が出ている所には千早と同じような切り傷が徐々に増え始めていた。
四月一日わたぬき 柊也とうや
風にあの切り傷だと‥‥‥鎌鼬かまいたちですね。
四月一日君は呉さんの相手を射殺すような目で見つめる。
‥‥‥そうだった、四月一日君は呉さんに懐いてたんだっけ。
酒葉さかば みのり
かまいたち‥‥‥?
四月一日わたぬき 柊也とうや
うん。つむじ風に乗って鎌で斬ったような切り傷を付ける妖怪のこと。
だから千早にも鎌で斬ったような切り傷が‥‥‥
くれ 葉月はづき
だから体育って何なのほんと!!
突然、呉さんが逆上して相手に突っ込んで行く。

苛ついて「もう何にでもなれ!」みたいになる時がある。
今まさに、呉さんがそんな感じだっ‥‥‥‥は?
くれ 葉月はづき
へ?
驚くことに、呉さんは一瞬にして相手との間合いを詰めてしまった。
くれ 葉月はづき
‥‥‥よ、よく分からないけど‥‥‥鳩尾みぞおち
呉さんは変な決め台詞を残し、相手の鳩尾へグーパンチをキメた。
相手はバタリと地面に倒れる。

その一瞬のことに、競技場はしんと静まり返る。
‥‥‥ユリがポップコーンを咀嚼そしゃくする音だけは聞こえるが。
音羽おとは 捺祢なつね
え、えーっと‥‥‥
音羽おとは 捺祢なつね
第四試合、笠木勝の戦闘不能により呉葉月の勝利とする。
‥‥‥そして、第四試合は呉さんの圧勝?に終わったのだった。

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