酒葉の体が死後硬直を始めた頃、俺は瑞樹と慎を探し始めた。
この満身創痍ではロクに音羽とやりあえないし、俺らの負けは確定にも等しい。
だから、二人の穴掘りの手伝いをして早く終わらせる為に二人を探す。
瑞樹と慎に会って、何て言おう。
そんなことを考えながら、何も知らずすました顔で咲く花たちの横を歩く。
少しして、広い花壇の上に立つ影を見つける。
穴を掘っている。けど、一人だった。
どちらかは捺祢を相手しに行ったのか、と思いながら影に近付く。
──────二人、だった。
せっせと穴掘りを進める少年と、その近くで死んだように横たわる少年。
いや、違う。あれは、死んで横たわる少年……
どうして。どうして慎が。
思考をぐるぐると回し、考える。
誰がやったのか。何故こんな姿になってしまったのか。
予想は、付く。
瑞樹は俺に気付かないのか、それとも気付いていて知らないフリをしているのか、ただ黙々と穴を掘り続ける。
俺はそんな瑞樹に近寄り、言葉を紡ごうとして、呑み込んで、また紡ごうとして、呑み込んで。
そして、やっと出た声は、とてもか細いものだった。
しかし、俺の言葉をかき消すように瑞樹は口を開いた。
穴を掘る手は止めず、目線も落としたままで。
瑞樹は顔を下に向けているから表情がよく読み取れない。
けれど、その声は少し震えていた。
いい、とは?
俺が謝ると予感して言っているのだろうか。
だとしたら、瑞樹はどうして酒葉さんが死んでしまったことを知っている?
こいつは福冨の能力持ってんじゃないか、なんて思うくらい瑞樹は俺の心を的確に当てる。
そして瑞樹は、それはな、と続けた。
やっと、瑞樹は顔を上げて俺を見つめた。
──────泣いている。
そう、思った。
その瞳から涙をこぼしているわけでも、喚いているわけでもないのに、そう思った。
そうか。瑞樹も、俺も、こんな顔をしている。
ここに来る途中で管理室から拝借してきたメジャーを渡すと、瑞樹はからからと笑った。
そして、じゃあやるか、と気合いを無理矢理入れてシャベルを手に取る。
10mまで、あと少し。
* * * * *
ミッションを終わらせて試合終了と共に映画館へ戻ると、龍が俺と東の肩に腕を回して体重をかけてきた。
龍はそう言って、そっけないなーと苦笑する。
俺と東の頭に手を起き、龍は絡みに行くのか呉さんと四月一日君の元へと歩いて行った。
俺と、東。二人で笑い合う。
すると少しして、千早が俺の元へやってきた。
俺の返事を聞いた千早は、はぁ、と大きな溜息をしてから手を振り上げる。
俺はこれから来るであろう衝撃に備えて身構えた────が、次の瞬間に来た衝撃は思っていた衝撃とは違った。
ぱしん、と両頬に掌をぶつけられる。
てっきり殴られるかと思っていた。
未だに千早の掌は俺の両頬で、どうしたのかと恐る恐る閉じた目を開ける。
千早は、射貫くような眼でそう言った。
「やってあげる」がどう考えても「殺ってあげる」だよな、と呟く東を横目に、頬にある千早の手に少し触れる。
苦笑気味にそう言うと、千早は満足したように俺の頬から手を放した。
ユリのその一声で、ざわざわとしていた映画館が静かになる。
捺祢は少し前からルールのプリントをまわしていたようで、俺が今もらったプリントで最後だった。
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『カンニングゲーム』
・テストを解くゲーム
・解けなかったらカンニングしてもOK
・カンニングする場合は相手を殺す、
または戦闘不能にさせて答案用紙を
奪うこと
・カンニングをする時、カンニングを
される時、答え合わせをしに行く時
のみ離席許可
・自分から答案を見せるのは禁止
・模範解答の紙はユリが所持している
・制限時間は1時間半
・制限時間内に解けなかった場合、答
案用紙に答えを書けなくなった場合
は失格とする
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そんな二人の会話をよそに、俺は溜息を吐く。
また、誰かが死んでしまうのか。
その現実は、身近な人が死んでしまったことによりいっそう現実味が増した。
そうやって、俺にまたマイナスな気持ちが重なってきた時。
───────ぎゅ。
不意に、手を握られた。
誰だ、とその手を握る主を見たところ、なんとそこには呉さんが立っていた。
いたずらっぽい笑顔で、俺を見つめる呉さん。
ああ、もしかして君、俺を元気付けようとしてくれてる?
呉さんが笑ったので、俺も笑い返す。
そうやって二人で笑っていると、さっきまで二人で話していたのか、東と龍がこちらにやってきた。
ニヤニヤする龍を横目に、まあな、と返して二人で話すユリと捺祢を見つめる。
そうして今度は四人で笑う。
……そうだな。うん。
頑張るよ、俺。
『あっ、そこのお前、もしかして陸上部に入る?』
『そうだけど……』
『やっぱりか!俺、楠木慎!お前は?』
『千島瑞樹。千島って案外言いにくいから瑞樹で良いよ』
『りょーかい!俺も陸上部入るから、これからよろしくな』
『────瑞樹』
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。