第51話

XXの時間
109
2020/08/15 12:04
酒葉の体が死後硬直を始めた頃、俺は瑞樹と慎を探し始めた。
この満身創痍ではロクに音羽とやりあえないし、俺らの負けは確定にも等しい。
だから、二人の穴掘りの手伝いをして早く終わらせる為に二人を探す。

瑞樹と慎に会って、何て言おう。
そんなことを考えながら、何も知らずすました顔で咲く花たちの横を歩く。
碑賀ひが あずま
……いた。
少しして、広い花壇の上に立つ影を見つける。
穴を掘っている。けど、一人だった。
どちらかは捺祢を相手しに行ったのか、と思いながら影に近付く。

──────二人、だった。

せっせと穴掘りを進める少年と、その近くで死んだように横たわる少年。
いや、違う。あれは、死んで・・・横たわる少年……
碑賀ひが あずま
慎……
どうして。どうして慎が。
思考をぐるぐると回し、考える。

誰がやったのか。何故こんな姿になってしまったのか。
予想は、付く。

瑞樹は俺に気付かないのか、それとも気付いていて知らないフリをしているのか、ただ黙々と穴を掘り続ける。

俺はそんな瑞樹に近寄り、言葉をつむごうとして、呑み込んで、また紡ごうとして、呑み込んで。
そして、やっと出た声は、とてもか細いものだった。
碑賀ひが あずま
瑞樹、俺……
千島ちしま 瑞樹みずき
いいよ。
しかし、俺の言葉をかき消すように瑞樹は口を開いた。
穴を掘る手は止めず、目線も落としたままで。
千島ちしま 瑞樹みずき
いいよ、東。何も言わないでいい。
瑞樹は顔を下に向けているから表情がよく読み取れない。
けれど、その声は少し震えていた。

いい、とは?
俺が謝ると予感して言っているのだろうか。
だとしたら、瑞樹はどうして酒葉さんが死んでしまったことを知っている?
千島ちしま 瑞樹みずき
どうして、って思ったろ。今。
こいつは福冨の能力持ってんじゃないか、なんて思うくらい瑞樹は俺の心を的確に当てる。
そして瑞樹は、それはな、と続けた。
千島ちしま 瑞樹みずき
東、たぶん俺と同じ顔してる。
やっと、瑞樹は顔を上げて俺を見つめた。

──────泣いている。

そう、思った。
その瞳から涙をこぼしているわけでも、喚いているわけでもないのに、そう思った。

そうか。瑞樹も、俺も、こんな顔をしている。
千島ちしま 瑞樹みずき
なぁ、東。暇だったらさ、穴掘り手伝ってくれない?流石に疲れたわ。
碑賀ひが あずま
元からそのつもりでここに来た。ほら、メジャー。
千島ちしま 瑞樹みずき
さっすが東。
ここに来る途中で管理室から拝借してきたメジャーを渡すと、瑞樹はからからと笑った。

そして、じゃあやるか、と気合いを無理矢理入れてシャベルを手に取る。
10mまで、あと少し。





* * * * *




瀬戸口せとぐち りゅう
おっかえり~!東アンド瑞樹!
ミッションを終わらせて試合終了と共に映画館へ戻ると、龍が俺と東の肩に腕を回して体重をかけてきた。
千島ちしま 瑞樹みずき
重……
碑賀ひが あずま
重い。
瀬戸口せとぐち りゅう
おかえりの返しは無しですかそうですか。
龍はそう言って、そっけないなーと苦笑する。
瀬戸口せとぐち りゅう
ま、お疲れさん。無事で良かった。
俺と東の頭に手を起き、龍は絡みに行くのか呉さんと四月一日君の元へと歩いて行った。
碑賀ひが あずま
……龍はあれで、励ましたつもりなんだろうな。
千島ちしま 瑞樹みずき
励まされた?
碑賀ひが あずま
感謝するくらいには。
千島ちしま 瑞樹みずき
超励まされてんじゃん。
俺と、東。二人で笑い合う。
すると少しして、千早が俺の元へやってきた。
千島ちしま 瑞樹みずき
うっわそうじゃん慎の分の……
本能寺ほんのうじ 千早ちはや
何?
千島ちしま 瑞樹みずき
ナンデモゴザイマセン。
俺の返事を聞いた千早は、はぁ、と大きな溜息をしてから手を振り上げる。

俺はこれから来るであろう衝撃に備えて身構えた────が、次の瞬間に来た衝撃は思っていた衝撃とは違った。

ぱしん、と両頬に掌をぶつけられる。
てっきり殴られるかと思っていた。
未だに千早の掌は俺の両頬で、どうしたのかと恐る恐る閉じた目を開ける。
本能寺ほんのうじ 千早ちはや
しっかりしな。
千早は、射貫くような眼でそう言った。
本能寺ほんのうじ 千早ちはや
楠木を殴る代わりに暗い顔叩き直してやったんだから感謝しなさいよ。
千島ちしま 瑞樹みずき
超痛いのは変わりないんだけど。
本能寺ほんのうじ 千早ちはや
何?顔面にもう一発?いいよ、やってあげる。
千島ちしま 瑞樹みずき
イエ、ダイジョウブデス。
「やってあげる」がどう考えても「殺ってあげる」だよな、と呟く東を横目に、頬にある千早の手に少し触れる。
千島ちしま 瑞樹みずき
ありがとう、千早。
苦笑気味にそう言うと、千早は満足したように俺の頬から手を放した。
ユリ
はいは~い!今回は引き分けってことで、次のゲーム行っちゃお~!
ユリのその一声で、ざわざわとしていた映画館が静かになる。
捺祢は少し前からルールのプリントをまわしていたようで、俺が今もらったプリントで最後だった。



───────────────────


『カンニングゲーム』

・テストを解くゲーム
・解けなかったらカンニングしてもOK
・カンニングする場合は相手を殺す、
 または戦闘不能にさせて答案用紙を
 奪うこと
・カンニングをする時、カンニングを
 される時、答え合わせをしに行く時
 のみ離席許可
・自分から答案を見せるのは禁止
・模範解答の紙はユリが所持している
・制限時間は1時間半
・制限時間内に解けなかった場合、答
 案用紙に答えを書けなくなった場合
 は失格とする



───────────────────
ユリ
ちなみに~!なんとテストはこの私、ユリが作りました!捺祢に監視されながらだったけど……
音羽おとは 捺祢なつね
当たり前だ。お前独断だと何するか分からない。
そんな二人の会話をよそに、俺は溜息を吐く。

また、誰かが死んでしまうのか。

その現実は、身近な人が死んでしまったことによりいっそう現実味が増した。


そうやって、俺にまたマイナスな気持ちが重なってきた時。

───────ぎゅ。

不意に、手を握られた。

誰だ、とその手を握る主を見たところ、なんとそこには呉さんが立っていた。
千島ちしま 瑞樹みずき
……え?く、呉さん?
くれ 葉月はづき
そんな顔してたら、慎君に笑われちゃうよ?
いたずらっぽい笑顔で、俺を見つめる呉さん。
ああ、もしかして君、俺を元気付けようとしてくれてる?
千島ちしま 瑞樹みずき
……うん、そうだね。そうだよ。慎は絶対笑うよな。慎に馬鹿にされるとか腹立つ。もう落ち込むのやめよう。
くれ 葉月はづき
あはは、うん、そうそう。
呉さんが笑ったので、俺も笑い返す。
そうやって二人で笑っていると、さっきまで二人で話していたのか、東と龍がこちらにやってきた。
瀬戸口せとぐち りゅう
何々、楽しそうじゃん。
ニヤニヤする龍を横目に、まあな、と返して二人で話すユリと捺祢を見つめる。
瀬戸口せとぐち りゅう
まっ、お互い頑張ろーな。
くれ 葉月はづき
私、テストとか大丈夫かなぁ。
千島ちしま 瑞樹みずき
呉さんなら大丈夫だよきっと。無理でもカンニングするとき無敵そうだし。
碑賀ひが あずま
俺は危ないかもな……
千島ちしま 瑞樹みずき
大丈夫、俺も危ない。
瀬戸口せとぐち りゅう
それ大丈夫って言わないと思うんですけどね。
そうして今度は四人で笑う。

……そうだな。うん。




頑張るよ、俺。





『あっ、そこのお前、もしかして陸上部に入る?』

『そうだけど……』

『やっぱりか!俺、楠木慎!お前は?』

『千島瑞樹。千島って案外言いにくいから瑞樹で良いよ』

『りょーかい!俺も陸上部入るから、これからよろしくな』


『────瑞樹』

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