体育館に不穏な空気が漂う。
ここにいる全員が、ユリと名乗る女子の言葉をよく飲み込めず、ただただ息を吞んだ。
千早はユリと捺祢を睨む。
ユリが捺祢に手を差し出すと、捺祢は数枚のプリントをユリに手渡した。
ユリは壇上から降りて、ここにいる八人にプリントを配る。
その時に一瞬、ユリの笑顔がさっきまでと違う笑顔のように感じた。
プリントを見た一霖が、ぽつりと呟く。
そんな会話をしているユリと捺祢を見ながら、一人の女子が手を挙げた。
ユリが深海先輩の名前を知っていることは、少し驚きだった。
多分、深海先輩は何も言い出せずにいる俺らの代弁をしてくれた。
冷静な判断で皆をまとめるリーダータイプだと、誰かが言っていたような‥‥‥
そして、先輩と呼ばれることが苦手だとか‥‥‥
そんなユリの言葉に、酒葉さんが安堵の声をもらす。
命をかけるなんて、そんなことは誰もやりたくないだろう。
酒葉さんが安堵の声をもらすのも当たり前の反応だ。
緩み始めていた体育館の空気が、再び凍る。
そう強気で言ったものの、声は震えていた。
ユリは笑みを浮かべて、俺らが体育館に入った時と同じ言葉を口にする。
四月一日君が突然、思いも寄らないことを言い出した。
千早の言葉に、四月一日君は自分の掌を見つめる。
四月一日君の手は、赤かった。
部活仲間の慎が、やっと口を開く。
恐らく、四月一日君の言う“俺らは服毒している”ということは嘘ではないと思う。
今日の給食のカレーは、確かにいつもと違う味がした。
それに、沢山の生徒が目の前で血を吹いて倒れたんだ。信じないという選択肢はどこにもない。
まぁこんな茶番はおいといて、とユリは笑みを絶やさず話し続ける。
棄権しても~、お家に帰っても~、自殺しても~、と一本二本と指を立てながら笑うユリから、配られたプリントに視線を落とす。
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予選『○Xゲーム』
・10問中5問正解で解毒剤確保
・メンバー(+ユリ・捺祢)についての○X
問題
・制限時間は2時間程度
・相談有り、本人の意見は一度だけ聞くこ
とが可能、他の人の回答を知ることは不
可能
・教室の扉を開けた人(1人1回まで)の問題
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このゲームに参加しないで解毒剤を確保できなければ、毒が回りきって死ぬ。
だからといってこのゲームに参加すれば、ユリの言う通り命をかけることになる。
どちらにしろ死ぬ可能性は高いわけだが‥‥‥
生き残った八人の沈黙を、決意と共に破る。
酒葉も含め、生き残り達が目を丸くして俺を見つめた。
参加しても、参加しなくても、死ぬ可能性はある。
ただ‥‥‥
その言葉に、ユリはにやりと笑った。
すると、一霖が声を上げる。
その次に呉さんが。
そして次々と、他の五人も声を上げた。
生き残り全員が、参加すると言った。
全員参加の決定だ。
『XXゲーム』が始まり、その中の予選が今から始まろうとしている。
自分の命が、○かXか、その二択で決まる。
これから俺らは命をかけるのだ。
解毒の為に───────。
ユリは、陽気に笑った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。