第2話

XXの為に
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2019/11/26 08:17
体育館に不穏な空気が漂う。

ここにいる全員が、ユリと名乗る女子の言葉をよく飲み込めず、ただただ息を吞んだ。
本能寺ほんのうじ 千早ちはや
命をかけて・・・・・ってどういう意味?
千早はユリと捺祢を睨む。
ユリ
そのままですよ~!ここにいる皆さんには、命をかけてもらいます!
ユリ
捺祢!プリント!
ユリが捺祢に手を差し出すと、捺祢は数枚のプリントをユリに手渡した。
ユリ
これは予選の説明が書いてあるプリントなのでなくさないようにね~!
ユリは壇上から降りて、ここにいる八人にプリントを配る。

その時に一瞬、ユリの笑顔がさっきまでと違う笑顔のように感じた。
福冨ふくとみ 一霖いちりん
○Xゲーム‥‥?
プリントを見た一霖が、ぽつりと呟く。
ユリ
そう、○Xゲーム!クイズに○かXかで答えるだけの簡単なゲームだよ~!
音羽おとは 捺祢なつね
命をかける分には簡単じゃないと思うけど。
ユリ
捺祢‥‥‥それは言わないお約束!
そんな会話をしているユリと捺祢を見ながら、一人の女子が手を挙げた。
ユリ
はいっ、霙ちゃんどーぞ!
ユリが深海先輩の名前を知っていることは、少し驚きだった。
深海ふかみ みぞれ
これは強制?拒否権はありますか?
多分、深海先輩は何も言い出せずにいる俺らの代弁をしてくれた。
冷静な判断で皆をまとめるリーダータイプだと、誰かが言っていたような‥‥‥
そして、先輩と呼ばれることが苦手だとか‥‥‥
ユリ
当然!強制じゃないし、拒否権もあるよ~!
そんなユリの言葉に、酒葉さんが安堵の声をもらす。
酒葉さかば みのり
よ、よかったぁ‥‥‥
命をかけるなんて、そんなことは誰もやりたくないだろう。
酒葉さんが安堵の声をもらすのも当たり前の反応だ。
ユリ
───ま、死んで良いならの話だけどね?
緩み始めていた体育館の空気が、再び凍る。
千島ちしま 瑞樹みずき
‥‥どういうことだよ。
そう強気で言ったものの、声は震えていた。
ユリ
今日の給食のカレー、美味しかった?
ユリは笑みを浮かべて、俺らが体育館に入った時と同じ言葉を口にする。
四月一日わたぬき 柊也とうや
まさか、毒が‥‥‥
四月一日君が突然、思いも寄らないことを言い出した。
くれ 葉月はづき
ど、毒‥‥!?
本能寺ほんのうじ 千早ちはや
その根拠は?
千早の言葉に、四月一日君は自分のてのひらを見つめる。
四月一日君の手は、赤かった。
四月一日わたぬき 柊也とうや
毒独特の‥‥匂いがします。それに、皆の吐血などといった症状から考えても、何かしらで服毒したと思われます。
四月一日わたぬき 柊也とうや
そしてこの篠北高で生徒全員が一斉に服毒できるものは‥‥‥
楠木くすのき しん
周に一度の給食、ってわけか‥‥‥
部活仲間の慎が、やっと口を開く。

恐らく、四月一日君の言う“俺らは服毒している”ということは嘘ではないと思う。

今日の給食のカレーは、確かにいつもと違う味がした。
それに、沢山の生徒が目の前で血を吹いて倒れたんだ。信じないという選択肢はどこにもない。
ユリ
おおっ!大正解~!流石校内トップの成績を誇るだけあるね~、柊也君。
ユリ
ま、私は天才なので何とも思わないけどねっ!
音羽おとは 捺祢なつね
“自称”
ユリ
捺祢は冷たいなぁ~‥‥‥
まぁこんな茶番はおいといて、とユリは笑みを絶やさず話し続ける。
ユリ
この『○Xゲーム』は皆の命がかかってるんだよ~!このゲームをクリアすれば君達を蝕む毒の解毒剤がもらえるんだ!
ユリ
死にたいならどうぞ、お好きのままに。
棄権しても~、お家に帰っても~、自殺しても~、と一本二本と指を立てながら笑うユリから、配られたプリントに視線を落とす。




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     予選『○Xゲーム』

・10問中5問正解で解毒剤確保
・メンバー(+ユリ・捺祢)についての○X
 問題
・制限時間は2時間程度
・相談有り、本人の意見は一度だけ聞くこ
 とが可能、他の人の回答を知ることは不
 可能
・教室の扉を開けた人(1人1回まで)の問題



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このゲームに参加しないで解毒剤を確保できなければ、毒が回りきって死ぬ。
だからといってこのゲームに参加すれば、ユリの言う通り命をかける・・・・・ことになる。

どちらにしろ死ぬ可能性は高いわけだが‥‥‥
千島ちしま 瑞樹みずき
やるよ、そのゲーム。
生き残った八人の沈黙を、決意と共に破る。
酒葉さかば みのり
え‥‥‥
酒葉も含め、生き残り達が目を丸くして俺を見つめた。

参加しても、参加しなくても、死ぬ可能性はある。
ただ‥‥‥
千島ちしま 瑞樹みずき
参加した方が、死ぬ可能性は僅かに低くなる‥‥‥だろ?
その言葉に、ユリはにやりと笑った。
ユリ
君ならそう言うと思ったよ、瑞樹君。参加してくれて嬉しいなぁ~!
ユリ
さ、瑞樹君は決まったけど‥‥‥皆はどうする?死ぬか、僅かな可能性に賭けるか。
すると、一霖が声を上げる。
福冨ふくとみ 一霖いちりん
僕、参加するよ。
その次に呉さんが。
くれ 葉月はづき
私も参加する!
そして次々と、他の五人も声を上げた。
本能寺ほんのうじ 千早ちはや
あたしも参加する。
深海ふかみ みぞれ
私も参加します。
酒葉さかば みのり
み、実も‥‥!
四月一日わたぬき 柊也とうや
僕も‥‥‥
楠木くすのき しん
俺も参加する。
生き残り全員が、参加すると言った。
全員参加の決定だ。

『XXゲーム』が始まり、その中の予選が今から始まろうとしている。
自分の命が、○かXか、その二択で決まる。

これから俺らは命をかけるのだ。
解毒の為に───────。
ユリ
全員一致でゲーム参加決定~!
ユリ
それじゃ、これより予選『○Xゲーム』を開始致しまぁ~す!
ユリは、陽気に笑った。


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