第49話

XXの実力 ⅩⅣ
87
2020/06/11 07:50
試合が始まった直後、東先輩に

『碑賀。わくわくエリアにいるが俺は動く。ミッションが無理そうだったら待機してろ』

と一方的に伝えられ連絡が付かなくなって数分。
酒葉さかば みのり
はぁ~……
トランシーバーが壊れていたのなら最初から連絡付かないはずだし、そもそも捺祢君が故障品を出してくるなんてことは考えられない。ユリちゃんがどうか分からないが。

それならば、東先輩が応答を拒否していることになる。
イヤホンとトランシーバーを既に捨てている可能性だって無きにしもあらずだ。


思ってみれば、東先輩は試合開始前から捺祢君を暗殺する気満々だった。
けれどそれを実とやろうとせず、実にはミッションと待機の二択を与えたのは、一体どういうことだろうか。
きっと、一人で捺祢君と対峙したい、という意思なのだろう。
酒葉さかば みのり
でもさぁ……一人でミッションは無理だし待機はなんか嫌だし!
あー!もうっ!!と実は目の前にある巨木をポカポカと叩く。
何て言ったっけ。この巨木。案内図には確か、“風の巨木”ってあったはず。風の草原にたたずむ一本の巨木。
酒葉さかば みのり
はぁはぁ……
そんなに激しく叩いていたわけでもないのに、息が上がる。

……さぁ、これからどうしよう。

ミッションは無理だけど、だからといって待機はしたくない。動きたい。

ならば、東先輩を探そうか。
一人で戦いたいのなら、それを遠目で見ていれば良い。
そうだ、そうしよう。それが良い。





* * * * *





自然エリアから花園エリアに歩いて、早数分。
少し先に二人の影が見えた。
あれは……
酒葉さかば みのり
瑞樹先輩!!……と、慎先輩も!
千島ちしま 瑞樹みずき
あ、酒葉さんじゃん。
楠木くすのき しん
俺はおまけか。
酒葉さかば みのり
おまけです!
楠木くすのき しん
そこは嘘でも違いますって言え!!
千島ちしま 瑞樹みずき
こら、後輩に怒鳴るな。おまけの慎。
楠木くすのき しん
お前絶対面白がってるだろ。
千島ちしま 瑞樹みずき
凄く面白いよ。
楠木くすのき しん
だから嘘でも否定しろつってんだろ!!何なのお前ら!
わっと喚く慎先輩をよそに、実と瑞樹先輩で目を合わせて笑う。
先輩二人は、こんな遠慮のない会話ができるくらいには仲良しだ。一緒にいると楽しくて全く飽きない。

そんな先輩方は今まで穴を掘っていたらしく、手には大きなシャベルを握っていて、近くにはまだ浅い穴と小さくて使えなかったのかスコップが放り出されていた。
酒葉さかば みのり
そういえば、先輩方はミッションを?
千島ちしま 瑞樹みずき
あぁ、うん。そうだよ。東にミッションやれって言われたし……
酒葉さかば みのり
あ~なんか言われてましたね!
千島ちしま 瑞樹みずき
そういう酒葉さんは?
酒葉さかば みのり
えっと……その、東先輩と連絡付かなくて……
実がそこまで言うと、二人はえぇっ!?と大きな声を上げて驚いた。
楠木くすのき しん
トランシーバー壊れたのか?
千島ちしま 瑞樹みずき
それかイヤホン。
酒葉さかば みのり
それはないと思います!最初だけは繋がりましたし……
楠木くすのき しん
えっ!?じゃあ、東が応答を拒否してるってことか!?
千島ちしま 瑞樹みずき
それしかありえないだろうな。
そうか……、と慎先輩が呟く。
千島ちしま 瑞樹みずき
あー、でも、最初は繋がったんだろ?何か言われた?
酒葉さかば みのり
いえ、何も……。ミッションするか待機するかの二択にしろとは言われましたけど、応答しなくなるとかは全く。
楠木くすのき しん
は?ミッションと待機の二択って……東は一人で暗殺しにいく気か?あの捺祢相手に?
千島ちしま 瑞樹みずき
東なら不可能ではないと思うけど……酒葉さんは攻守サポートどれもいけるから待機させるなんてことするか?東って慎より絶対頭良いだろ。
楠木くすのき しん
おい何でそこに俺が出てくる瑞樹。
千島ちしま 瑞樹みずき
東より頭良い自信ある?
楠木くすのき しん
ない。
千島ちしま 瑞樹みずき
だろ。
慎先輩はぐ、と何か言いたげな顔をしたが言えるわけもなく、溜息をそっと吐いた。
楠木くすのき しん
それなら、酒葉は何しにここへ来たんだ?まさか妨害?受けて立つ。
酒葉さかば みのり
いえ、東先輩を探しに!
千島ちしま 瑞樹みずき
受けて立たなくてよかったな。
楠木くすのき しん
うるせ。
ニヤニヤと笑う瑞樹先輩にどつかれ、慎先輩はそっぽを向く。
やっぱり仲良いな、なんて思った。
酒葉さかば みのり
じゃあ、そろそろ行きますね!邪魔しちゃ悪いですし!
千島ちしま 瑞樹みずき
受けて立つどころじゃなかったな。気ぃ使われてるぞ。
楠木くすのき しん
あー!!瑞樹お前もう喋るな!!
千島ちしま 瑞樹みずき
慎うるさい。酒葉さんごめんね、引き止めちゃって。
楠木くすのき しん
えっ、俺の扱い酷くね!?
酒葉さかば みのり
話しかけたのは実の方なのでお気になさらず!では!
千島ちしま 瑞樹みずき
はは、うん。ありがと。じゃあね。
楠木くすのき しん
無視!?
あからさまにしょぼくれる慎先輩を横目に、お辞儀をしてその場を離れた。

龍先輩あたりが爆笑してるだろうな、と少し思いながら、東先輩を探しに歩いたのだった。

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