この場に着いてすぐ、僕はトランシーバーを手に取った。
成瀬さんだと急に何をしでかすか分からないから、せめて何をするかは把握しておかないといけない。
耳元から「そうだねぇ!」と楽しそうな笑い声が聞こえる。
……大丈夫だろうか。
そこでプツリと音が切れた。
僕はさっそく園内案内地図を探し、中央広場がどの方角にあるのかを確かめる。
園内案内地図は案外近くにあり、見てみるとここはやはり家族エリアで、その中でも“はらぺこの村”という飲食店が建ち並んだ所だった。
ここから中央広場は西、か。
走って中央広場に向かう途中、少し先を横切る人影が見えた。
あれは……多岐先輩?
あの方向は自然エリアだ。
……ということは、多岐先輩はやっぱりミッションの遂行を優先したんだ。
僕は姿を多岐先輩に見せないようにして、また中央広場へと走り出した。
* * * * *
特にトラブルも起きず、無事に中央広場に到着した。
成瀬さんはまだ来ていないらしく、この場には僕一人がぽつんと立っている。
僕は近くにあったベンチに腰を掛け、成瀬さんを待つ。
ユリの対抗策として、僕はやはりサポート役だろう。
大方、成瀬さんの能力で作られた物と自分や成瀬さんをユリの視界から消すことが優先だろうな。
ユリの色覚を操作できるのかは少し不安だけど、やるだけやってみよう。
後は……成瀬さん次第。
任せっぱなしというのも駄目だが、基本的には成瀬さんの攻撃が核となる。
能力的には中距離だけど……もし成瀬さんが体術を心得ているのなら近距離もありえる、か。
これはユリと遭遇する前に聞いておかないと。
僕がベンチで一人思考を巡らせていると、成瀬さんが何故か自然エリアから手を振って走ってきた。
花園エリアじゃなくて自然エリアにいたのか?
成瀬さんに衝撃の告白をされ、半信半疑で自然エリアの方を見る。
手前は何もなっていないが、どうやらその先で爆弾を落としてきたのか少し奥の方で火の手が上がっていた。
こんな物騒なことをつらつらと口にする成瀬さん、実はとても良い笑顔をしているのだ。
……なんか、日頃の代々木先輩の苦労を身をもって知った気がする。
自然エリアへと向かった多岐先輩が少し気になるが、今は自分のことに集中だ。
妨害有りなのは知っていたが、こんなにも豪快な妨害があるのかと頭を抱えたくなる。
まぁ……悪い方向には向いていないのは確かだ。
このまま、上手くいけば願ったり叶ったりだな。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!