二人は同時に立ち上がると、目を丸くして互いの顔を見あった。
元気な酒葉さんの声に、呉さんは肩を落とす。
まぁ、同じ高校だとやりにくいよな‥‥
酒葉さんに促されて歩き出す呉さん。
俺はそんな呉さんの腕を掴んで引き止めた。
不思議そうに振り向く呉さんに、俺は笑って一言だけ告げる。
俺の言葉を聞いて、呉さんは嬉しそうに笑った。
呉さんの笑顔を見て、俺は手を離す。
そして呉さんが向かうフィールドへと視線を移した。
フィールドにはさっきまでいなかった捺祢が立っていた。
捺祢は慎をかついでどこかへ行ったから‥‥もしかして‥‥!
誰かが俺の肩に手を置いたかと思えば、そこには怪我一つない慎が立っていた。
慎は苦笑しながら俺の隣に座る。
慎はいつも通りの様子なので、きっと捺祢は慎に悪いことはしなかったのだろう。
さっきの重症の慎を思い出すと今でもヒヤッとするが、元気そうで安心した。
一霖も安心したのか、微笑みを浮かべている。
深海先輩の声で、俺らはフィールドに視線を戻した。
呉さんは身体強化。
酒葉さんは植物操作。
この戦い、どうなるか全く予想が付かないけど‥‥‥
始めの合図がおりると、フィールドに立つ二人は少し身構えた。
酒葉さんは攻撃開始を呉さんに伝える。
呉さんは酒葉さんの攻撃に向けて構えているようだが‥‥‥
気に食わない、という顔をする千早を横目に、俺は二人の闘いを見つめる。
酒葉さんが植物を地面から出し、呉さんに向かって触手のような茎を伸ばす。
呉さんは身体強化で素早くその場から逃げ、攻撃を回避する。
今度は呉さんが攻撃の合図をする。
‥‥‥千早はさっきより不満そうだ。
攻撃の合図をした呉さんは、酒葉さんに殴りにかかる。
酒葉さんは植物をバリアとして使い、それを止めた。
そう言って苦笑いする四月一日君。
確かにそうだ。この様子だと一向に終わらない。
酒葉さんが攻撃をし、それを呉さんは避ける。
そして呉さんが攻撃をし、それを酒葉さんが止める。
攻撃の合図を送っているようだと、こんなの無限ループだ。
深海先輩の言葉に、俺たちは大きな溜息を吐いた。
‥‥‥何か良い方法でもないかな。
そう、心の中で思った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。