私は戦う気満々の構えをしたのだが、慎先輩と龍先輩は嫌そうな顔をして構え始めた。
瑞樹先輩は多分、後輩をとても大事に思うタイプ。
もちろん仲間や友達、先輩も大事に思っているだろうけど‥‥‥
話し方が凄く優しい。
後輩からの好感度良いだろうな~とか思いながら、私は能力を発動させる。
太くて硬いツルを出して慎先輩の右手首と龍先輩の左手首を巻いて繋ぎ、二人が30㎝以上離れられないようにする。
そしてまた、そこから一本のツルを伸ばして瑞樹先輩の右手首に巻く。
これで慎先輩と龍先輩は、瑞樹先輩の半径5mより外には絶対に離れられない。
こそこそ話しているつもりなのか、こちらをちらちらと見ているが‥‥‥丸聞こえである。
龍先輩はそう言って慎先輩の手からナイフを奪い、慎先輩の腕に容赦なく刺す。
龍先輩が刺した所が丁度クリティカルヒットしたのか、痛い痛いと喚く慎先輩。
何か本当に可哀想になってきた‥‥‥
瑞樹先輩は呆れたように笑う。
慎先輩はすぅ、はぁ、と一度だけ深呼吸をしてから止まらず流れる血を硬化させた。
慎先輩はそう言って、硬化させた血液を私たちめがけて放った。
瑞樹先輩は私を背中に隠して庇うように立ってくれる。
瑞樹先輩が振り返って少し笑ったかと思うと、硬化されていたはずの血液がいつの間にか液体に戻り、瑞樹先輩の制服や顔に付いているだけだった。
怒る慎先輩をよそに、龍先輩は冷や汗をかきながら笑う。
始めは間抜けな顔をしていた慎先輩だったが、自分の腕を見た瞬間徐々に顔が青ざめてゆく。
それもそのはず。
硬化させたはずの血が液体に戻った。
その上、龍先輩が治したはずの腕には傷跡が残っている。
つまり、だ。それは慎先輩と龍先輩の能力が弱まっていると言える。
既に何かを悟ったような顔をしていた龍先輩が口を挟む。
「半減しかできないからおかげでこれだよ」と笑って制服のジャケットを脱ぐ瑞樹先輩。
あ‥‥そっか。慎先輩の血が付かないように庇ってくれたのか。
私たちの会話を不思議に思ったのか、慎先輩と龍先輩は首を傾げる。
私が慎先輩と龍先輩の手首にツルを巻いたのは逃がさないようにする為だけじゃない。
私が二人と瑞樹先輩とで違うツルを使ったのにも理由がある。
さぁ、先輩方。
────────毒の時間ですよ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!