第53話

XXの時間 Ⅴ
76
2020/08/18 15:20
千島ちしま 瑞樹みずき
不良顔のくせに…
瀬戸口せとぐち りゅう
聞こえてんぞオイ
実は龍はハイスペックだと判明し、数分後。
俺は悪態をつきながら目の前の問題にかじりついていた。

思えば、開始から今までずっと集中できていたためしがない。
集中しようと思えば余計な情報が外界から流れ込んでくるのが大きな原因だろうか。

このままだと終わらないな……と、そう思った矢先。

ガタン、と椅子から立つ音が聞こえた。

俺の右斜め後ろ、つまり龍の後ろ。
音を立てた主は、東だ。


え?まさか東も終わった?え??

そうしてついに焦り始めた俺は、斜め後ろを見やる───が。
碑賀ひが あずま
先に謝ります。すみません、先輩
多岐たき 朱音あかね
────え?
俺が見た瞬間には、もう多岐先輩は机に突っ伏そうとしていた所だった。

ヘタリ、と多岐先輩の力が抜ける。
瀬戸口せとぐち りゅう
うっわぁ。やるねぇ
隣で、龍がそう零したのが聞こえた。

すると、何が起きたか理解できない、という顔をあからさまにしていたのか、呉さんが俺に耳打ちをしてくれる。
くれ 葉月はづき
すごいんだよ…東君、朱音先輩に手刀入れてた。漫画みたいな速さと身軽さだったよ
千島ちしま 瑞樹みずき
手刀…
だから、多岐先輩は間もなく撃沈したのか。

そうして状況を理解した俺は、多岐先輩を撃沈させた張本人である東に目線を移した。

東は多岐先輩の答案用紙を取り、席に着く。
きっと東は自分では無理だと判断して、近くにいた頭の良さそうな人の答案をカンニング奪い取ろうとしたのだろう。

龍でも良かったハズだが、きっと心境的にも効率的にも多岐先輩が一番良かったのだ。
千島ちしま 瑞樹みずき
はぁ…
もういい。今度こそ、今度こそ集中だ。
慎の為にも、俺は生き残らなきゃいけな────
つじ 林太郎りんたろう
それ、ちょーだい?
四月一日わたぬき 柊也とうや
っ……!
────今度は何なんだ。

そう思い、問題から目を離して顔を上げる。
その声は、俺の左斜め前から。

しかし、またもや既に四月一日君は机に突っ伏していた。

四月一日君には目立った外傷もなく、ただ机に突っ伏しているだけだったが、ゴン、という音は聞こえたのでどこかしら殴られたのだろう。

それに、辻君なら殴る前に四月一日君の体力を奪い続けていたに違いない。

力が入らなくなってきた所で、頭に一発…が妥当だろうか。


辻君は満足げに四月一日君の答案用紙を奪い取り、席に着く。
始終ニコニコだったのは、もう気にしないでおこう。

ついでに、隣から「うわぁ敵に回したくねぇ…」と龍の声が聞こえたのも気にしない気にしない。
千島ちしま 瑞樹みずき
はぁ…
今度こそ、本当の本当に。絶対、集中する。

俺は気持ちを切り替える為に大きく息を吐き、再び問題と向き合ったのだった。

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