音羽を相手してから十数分。感覚的にはもう四十分以上は経過している。
今あたしが生きていることが不思議なくらい音羽の優勢。
しかも、今さっき加勢してきた国木田がいるのに攻撃数は減らない。
だいぶ息も上がってきた。
辻が戦闘放棄した今、あたしがやるしかないのに。ここでへばってどうするの……
私が放った炎が、音羽の頬をかすって国木田へ直進する。
勿論、それもバリアで防がれた。
けれどそれによって国木田は体勢を崩し、音羽はその隙にナイフを国木田の横腹に向かって突き立てる。
しかし国木田のバリアがそれを許さず音羽はナイフを地面に落とす。
音羽は不満そうに顔を歪め、舌打ちをする。
そして動きが止まったかと思うと音羽は深い溜息を吐いてから両手を挙げた。
そして、肩で息をしながら思い知る。
……あぁ、負けた。負けたんだ。
国木田がトランシーバーと話す声が聞こえる。
どうやら代々木も泳ぎきったようだ。
完敗。その言葉が一番似合う試合だ。
音羽のその声と共に、視界が変わった。先程の映画館だ。
あたしが一息吐くと、近くの二人の肩がビクリと揺れるた。
………さて、どちらを殴ろうか。
* * * * *
そんな会話をしているうちに、慎の肩に手が置かれる。
………あ、やばい。
慎、撃沈である。
慎の鳩尾に大打撃を加えた千早様はというと、それはもう爽やかなお顔でいらっしゃる。
なんと恐ろしい。
そんな光景を一霖は困ったように見つめていた。
千早は満足そうにその場から立ち去ると、席に座る。
そんな会話をしながら俺は慎に手を貸して立たせる。
なすりつけ合ったとはいえ、本当にご愁傷様だ。
アイスでも奢ってやりたい気分になる。
そうこう話しているうちに、ユリの合図で試合が始まった。
俺は慎と一緒に席に座る。
今、ここで俺と慎が残ったということは、敵か味方どちらかになることが決定したということ。
敵じゃないと良いな、と心の中で呟きながら、俺は試合の映像を眺めた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。