第46話

XXの実力 Ⅷ
84
2020/05/30 15:21
音羽を相手してから十数分。感覚的にはもう四十分以上は経過している。

今あたしが生きていることが不思議なくらい音羽の優勢。
しかも、今さっき加勢してきた国木田がいるのに攻撃数は減らない。
本能寺ほんのうじ 千早ちはや
はぁ…はぁ……っ
だいぶ息も上がってきた。

辻が戦闘放棄した今、あたしがやるしかないのに。ここでへばってどうするの……
国木田くにきだ 達也たつや
わっ……!
私が放った炎が、音羽の頬をかすって国木田へ直進する。
勿論、それもバリアで防がれた。

けれどそれによって国木田は体勢を崩し、音羽はその隙にナイフを国木田の横腹に向かって突き立てる。
しかし国木田のバリアがそれを許さず音羽はナイフを地面に落とす。
音羽おとは 捺祢なつね
ほんっと……きりがない。
音羽は不満そうに顔を歪め、舌打ちをする。
そして動きが止まったかと思うと音羽は深い溜息を吐いてから両手を挙げた。
音羽おとは 捺祢なつね
降参。第2試合、国木田&代々木ペアの勝利。
そして、肩で息をしながら思い知る。
……あぁ、負けた。負けたんだ。
国木田くにきだ 達也たつや
はい。え?そうか……お疲れ様。ん?ああ、こっちも完了。降参もらった。
国木田がトランシーバーと話す声が聞こえる。
どうやら代々木も泳ぎきったようだ。

完敗。その言葉が一番似合う試合だ。
本能寺ほんのうじ 千早ちはや
はぁ……
音羽おとは 捺祢なつね
じゃあ、戻るぞ。
音羽のその声と共に、視界が変わった。先程の映画館だ。
本能寺ほんのうじ 千早ちはや
………さて。
あたしが一息吐くと、近くの二人の肩がビクリと揺れるた。
………さて、どちらを殴ろうか。




* * * * *




楠木くすのき しん
お、おい瑞樹……どうする?
千島ちしま 瑞樹みずき
どうするもこうするもないだろ、お前が受けろ。
楠木くすのき しん
はぁ!?何で俺!
千島ちしま 瑞樹みずき
だって俺、もう殴られた。
楠木くすのき しん
いや、だからって……
千島ちしま 瑞樹みずき
死なば諸共。
楠木くすのき しん
え、俺死ぬの??
そんな会話をしているうちに、慎の肩に手が置かれる。
………あ、やばい。
千島ちしま 瑞樹みずき
………お盆には花供えに行ってやるよ。
楠木くすのき しん
えっ!?ちょ、お盆って、え、はぁ!?
楠木くすのき しん
え、ま、待っ……ぐほぉっ!!
慎、撃沈である。
本能寺ほんのうじ 千早ちはや
……ふぅ。
慎の鳩尾に大打撃を加えた千早様はというと、それはもう爽やかなお顔でいらっしゃる。
なんと恐ろしい。
福冨ふくとみ 一霖いちりん
あはは……
そんな光景を一霖は困ったように見つめていた。
千早は満足そうにその場から立ち去ると、席に座る。
千島ちしま 瑞樹みずき
し、慎……立てるか?
楠木くすのき しん
な、なんとか……
千島ちしま 瑞樹みずき
まぁ無事で何より。
楠木くすのき しん
これが無事に見えるかコノヤロウ。
千島ちしま 瑞樹みずき
そうだな、これはアウトだな。
楠木くすのき しん
だろ。
そんな会話をしながら俺は慎に手を貸して立たせる。
なすりつけ合ったとはいえ、本当にご愁傷様だ。
アイスでも奢ってやりたい気分になる。
ユリ
『3試合目、多岐茜と草鹿春日 対 四月一日柊也と成瀬冴羅!試合開始!』
そうこう話しているうちに、ユリの合図で試合が始まった。
千島ちしま 瑞樹みずき
……慎、この試合じゃなくて良かったな。今は鳩尾に優しく休んどけ。
楠木くすのき しん
鳩尾に優しくって………まぁそうだけどよ。
俺は慎と一緒に席に座る。

今、ここで俺と慎が残ったということは、敵か味方どちらかになることが決定したということ。
敵じゃないと良いな、と心の中で呟きながら、俺は試合の映像を眺めた。

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