辻君が目の前の建物を指差した。
確かに、あそこがルピス病院で間違いなさそう。
大丈夫じゃないかな、と草鹿君が言ったのとほぼ同時。
突然風をかき分けるような音がしたと思えば、まるで銃弾がコンクリートに当たったような音がした。
信じられない、という顔で横腹を抱える草鹿君。
ふらっとよろけ、俺の目の前で地面に吸い込まれていった。
俺と辻君が草鹿君に駆け寄ると、捺祢は眉をひそめて大きく舌打ちをした。
草鹿君を撃ち抜いたのはスナイパーライフルだろうか。
方向からしてルピス病院の向かいのマンション。
早く、早く、建物に隠れなくては。
俺がそう頷いて草鹿君を背負おうとすると、捺祢が手でそれを制した。
俺は捺祢の正論に下唇を噛み、優しく地面に下ろしながらごめんなさい、と目を固く閉じた草鹿君に告げる。
そしてコンクリートを強く蹴り、ルピス病院まで走った。
先に走り出していた辻君はもうルピス病院に着いたようで、中に入ろうとしている。
すると、隣を走る捺祢がまさか、と息を吞んだ。
───────ドォォォォン!!!
今までにない捺祢の大声に肩をびくつかせていると、病院の入口が唸る轟音と共に爆発した。
病院に入ったばかりの辻君は、轟音と共に炎の中に姿を消す。
また、捺祢が大きな舌打ちをする。
明らかにこっちが優勢だった。はずだ。
なのに‥‥何故、こんな短時間で二人も‥‥‥
何だよ、今度は何?と言おうとした。
しかし代わりに口から出たのはヒュ、という小さな空気。
初めは何が起こったか分からなかったが、視界がぐらつき始めてその上捺祢の大きな舌打ちが聞こえちゃ、何が起こったかなんて分かってしまう。
‥‥‥あぁ、俺、撃たれた。
しかも頭。痛い、じんじんする。時間が過ぎるにつれて痛みが増してくる。
歪む視界の中、陽気なユリの笑みが見える。
ニコニコと笑うユリが、気持ち悪い、怖い、と思った。
けれどそれ以上は何も考えることができない。
コンクリート冷たいな、ってことくらいだ。
意識が朦朧とする。
ユリと捺祢の会話が聞こえる。
考えることができなくて、その会話の意味がよく分からない。
目を閉じる。暗い。
俺はそのまま意識を手放した。
ただ、最期に残る感覚は聴覚、ということが本当だと証明されるかのように、脳内に捺祢の声が響く。
捺祢のその一言で、この試合が降参で終わることは確かだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。