第75話

熱の果てに
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2026/04/24 13:10 更新
体育館の熱気は、もう限界を超えていた。











音駒の粘り強い守備と、梟谷の圧倒的な攻撃。









その中心で、黒尾くんと秋くんが互いの意地をぶつけ合っている。











私の視線は、ずっと秋くんを追っていた。











コートの向こう側で、誰よりも輝いて戦う秋くん。








どんなに激しいラリーの中でも、本当に強くて、かっこいい。その勇姿を一生懸命応援しながら、私は胸を弾ませていた。















でも、試合終盤にさしかかる頃、ふと音駒のコートの黒尾くんへ視線がいく。











彼はいつも通りの黒尾くんだったけれど、どこか一つ、歯車が噛み合っていないような違和感があった。主将として完璧に振る舞おうとするあまり、少しだけその表情が固く見えていたのかもしれない。









(……大丈夫かな)












私は彼を心配して、というよりは、何か落ち着かない気持ちでその背中を見守っていた。











そう思っていた、その時だった。












「ッシャアアア!!」













執念でボールに食らいつく黒尾くんの、獣のような叫び声が響いた。










思わずスコアブックを握る手に力が入り、ペン先が震える。











(……えっ?)










私は自分の目を疑った。









さっきまで感じていた、あの微妙な違和感が、嘘のように消えていたからだ。












今の黒尾くんは、研ぎ澄まされた表情で、ただひたすらに秋くんという好敵手を食らおうとする、純粋な闘争心そのものだった。










自分の中の澱をすべて吐き出すように、秋くんと正面からぶつかり合うその背中は、驚くほど堂々としている。












(吹っ切れた……んだ)













心臓がドキリと大きく跳ねる。





驚きで息を呑んだけど、それ以上に、じわりと胸の奥が温かくなった。












あれほど何かを抱えていそうだった黒尾くんが、今は誰よりも楽しそうに、バレーのコートを謳歌している。












彼自身が何かを見つけ出したんだと、その背中が物語っていた。













そして運命のラリー。











秋くんが右サイドから跳び、それを黒尾くんが阻む。空中
で二人の視線がぶつかった瞬間、黒尾くんの顔に浮かんだのは苦渋ではなく、少年のように歪んだ心底楽しそうな笑みだった。











ドォォォォン!!













床にボールが叩きつけられ、審判のホイッスルが響く。試合終了だ。











着地した秋くんは、達成感に満ちた最高の笑顔をこちらに向けた。












(秋くん、勝った……!)













私は秋くんのその眩しい笑顔に胸をときめかせながら、視界の端で黒尾くんの様子を確かめた。












膝に手をついて荒い息をついているけれど、顔を上げたその表情は、もう無理をしていた頃の彼ではなかった。








すべてを出し切った、清々しいほどの「黒尾鉄朗」がそこにいた。











二人がネット越しに握手を交わす。










互いの力を認め合った、真っ直ぐで輝くような握手。










(……かっこいいな)










秋くんの勝利は本当に嬉しい。でも、同じくらい、吹っ切れた黒尾くんの姿も眩しかった。









バレーに夢中になって、自分自身の壁を突き破った二人の姿。






その両方を見届けることができて、私は心から「最高の試合だった」と思えた。

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