コートに入る時、不意に声をかけられた。
「……よっ。黒尾。随分と力んでんじゃん」
振り向くと、木葉が、俺をじっと見ていた。
俺はわざとらしく肩をすくめて、毒づく。
「っ……うるせーよ木葉。……次は木兎もお前も抑えて、完璧に点取ってやるからな。それまで覚悟しとけよ」
挑発的に言い返した俺に、
木葉は少し視線を泳がせ、やがて溜息混じりに口を開いた。
「……おれ、お前のこと最初、まじで嫌いだったよ。いや、今も少しは嫌いかもな」
「……は? なんだよ急に。酷いこと言うじゃん」
思わず苦笑いが漏れる。だが、木葉の表情は真剣そのものだった。
「……お前さ、ずっと余裕そうに見えるんだよ。どんな時も飄々としてて、全部手に入れてるみたいで。……お前を見てると、俺がどんどんみじめに思えてきたんだ」
木葉の言葉が、俺の胸に刺さる。余裕そうに見える? 俺が?
「……お前が、俺の大事にしてるものを、横から全部掻っ攫っていくみたいに見えてさ。……正直、面白くなかったよ」
木葉の言葉に、俺は言葉を失った。
「でも……。そんなお前のこと、認めたくねーけど『かっけぇな』とか思ってたよ」
木葉はそこで一度言葉を切り、真っ直ぐに俺の瞳を射抜いた。
「俺は、お前みたいになれねーし、あなたのことになると……特に俺、不器用だからさ」
自嘲気味に笑ったあとに続いた言葉に、俺は息を呑んだ。
「……お前が、まだあいつのことを諦めきれねぇんなら。俺はお前なんかには絶対に負けない。真っ向から戦って、勝ってやるよ」
それは、木葉なりの最大限の宣戦布告だった。
俺があなたを想っていることを見透かされた上で、今の彼女を大事にするという強烈な意思表示。
「……くっ、あはは!」
俺はたまらなくなって、声を出して笑った。
(………お前の方がかっこいいよ。、)
「……言うようになったな、木葉。お前も結構、泥臭いじゃねーか」
俺は自分の頬を、両手で思い切り叩いた。
掌に伝わる痛みと、木葉の言葉の熱さが、張り付いていた仮面を剥がしていく。
「いいよ。……その挑戦、ありがたく受け取ってやる。俺ももう、余裕ぶって格好つけるのはやめるわ」
俺は木葉に背を向け、コートへと歩き出す。
もう迷いはない。木葉のその言葉が、俺を完全にバレーのコートに引き戻してくれた。
「——さあ、本気で来いよ。完膚なきまでに叩き潰してやるからな」
後ろを振り返らず、俺は今までで一番鋭い笑みを浮かべた。
木葉もまた、その後ろ姿に確かな闘志を燃やしているのが分かった。
試合前の、静かな決着。
これでやっと、俺は「黒尾鉄朗」として戦える。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。