第74話

格好いい男(黒尾視点)
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2026/04/21 02:29 更新
コートに入る時、不意に声をかけられた。










「……よっ。黒尾。随分と力んでんじゃん」 











振り向くと、木葉が、俺をじっと見ていた。








俺はわざとらしく肩をすくめて、毒づく。












「っ……うるせーよ木葉。……次は木兎もお前も抑えて、完璧に点取ってやるからな。それまで覚悟しとけよ」















挑発的に言い返した俺に、
    





木葉は少し視線を泳がせ、やがて溜息混じりに口を開いた。










「……おれ、お前のこと最初、まじで嫌いだったよ。いや、今も少しは嫌いかもな」













「……は? なんだよ急に。酷いこと言うじゃん」











思わず苦笑いが漏れる。だが、木葉の表情は真剣そのものだった。











「……お前さ、ずっと余裕そうに見えるんだよ。どんな時も飄々としてて、全部手に入れてるみたいで。……お前を見てると、俺がどんどんみじめに思えてきたんだ」











木葉の言葉が、俺の胸に刺さる。余裕そうに見える? 俺が?











「……お前が、俺の大事にしてるものを、横から全部掻っ攫っていくみたいに見えてさ。……正直、面白くなかったよ」












木葉の言葉に、俺は言葉を失った。











「でも……。そんなお前のこと、認めたくねーけど『かっけぇな』とか思ってたよ」














木葉はそこで一度言葉を切り、真っ直ぐに俺の瞳を射抜いた。














「俺は、お前みたいになれねーし、あなたのことになると……特に俺、不器用だからさ」













自嘲気味に笑ったあとに続いた言葉に、俺は息を呑んだ。













「……お前が、まだあいつのことを諦めきれねぇんなら。俺はお前なんかには絶対に負けない。真っ向から戦って、勝ってやるよ」












それは、木葉なりの最大限の宣戦布告だった。









俺があなたを想っていることを見透かされた上で、今の彼女を大事にするという強烈な意思表示。











「……くっ、あはは!」









俺はたまらなくなって、声を出して笑った。










(………お前の方がかっこいいよ。、)













「……言うようになったな、木葉。お前も結構、泥臭いじゃねーか」











俺は自分の頬を、両手で思い切り叩いた。







掌に伝わる痛みと、木葉の言葉の熱さが、張り付いていた仮面を剥がしていく。 














「いいよ。……その挑戦、ありがたく受け取ってやる。俺ももう、余裕ぶって格好つけるのはやめるわ」










俺は木葉に背を向け、コートへと歩き出す。












もう迷いはない。木葉のその言葉が、俺を完全にバレーのコートに引き戻してくれた。












「——さあ、本気で来いよ。完膚なきまでに叩き潰してやるからな」













後ろを振り返らず、俺は今までで一番鋭い笑みを浮かべた。





木葉もまた、その後ろ姿に確かな闘志を燃やしているのが分かった。








試合前の、静かな決着。





これでやっと、俺は「黒尾鉄朗」として戦える。

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