第17話

16話‹特別な距離の笑い方›
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2018/10/05 11:52

夏休みが始まってすぐは、
まりとプールに行ったり、
いつもより遅くまでテレビを見たり、
クラスの子たちと
近所の図書館で宿題をしたりした。



5日目の今日から夏期講習が始まる。


朝一番の8:30からの枠に入れられた、
「化学」の文字。

それ以外の講習を取っていないから、
私はそれ一コマで終わり。




プリントで指定されている教室にいるけど、
もうすぐ開始時間だっていうのに
二宮先生は来ない。


ぼーっと校庭の野球部の練習を眺めながら、
夏の風を感じていると、
革靴の擦れるように歩く足音が
聞こえる。



二宮先生だ。



ドキ、として姿勢を正すと
後ろのドアがガラッとあいて
二宮和也
ごめん、あなただけだから化学準備室かと思ってたわ。あっち涼しいし、あっちでいい…?
私だけだから化学準備室…。


私だけ特別
と言われた気分になって、
一瞬舞い上がるけど、
私じゃなくても1人だからってことか、、
と途端に落ち込む。
自分
あ、はい。
と返事をすると、鞄を持って窓を閉める。
二宮先生がパチリと電気を消してくれて、
その翻した白衣の後ろ姿について歩く。



夏休みで人の全然いない廊下を通って、
化学準備室に入る。


ノックなしで、
二宮先生と一緒に入るのは
初めてだった。


入ると5日も来ていなかったのに、
部屋は夏休み前最後に片付けた時と
ほとんど変わっていなくて、


あれ、綺麗だ、という顔をしていたのか、
私を見ると鼻で笑って、
二宮和也
夏期講習なのにあなたに掃除させたら悪いでしょ
二宮先生なんて優しいの!!
自分
先生!ありがとうございます!
ってぺこーーって頭を下げたら
二宮和也
ハハハッ
二宮和也
嘘だよ、あれから俺も夏休みしてたから、今日5日ぶりにここ来たの。あーおもしろい


と笑うと
テスト前に使っていた机をまた用意して、
テキストをコピーしたプリントを置く。



嘘でもなんでもいい。


今……







今………二宮先生……









声だして笑った………

私が笑わせることができた………?

少しは心開いてくれた……?







普通の生徒とは少しだけ
違うふうに見てくれてる……?




もう講習が始まる前から
こんなに嬉しいことがあるなんて、と
涙をぐっとこらえる。
二宮和也
何変な顔してんの。やるよ、時間過ぎてんだから。
座んなさいと顎で席を指すと、
ガタと音を立てて私が座る
自分
変な顔はしてません
二宮和也
そ?じゃあ、ここから解いて?
また先生と生徒であることを
強く突きつけられる時間。



それでも今日一つ
また前に進めた気がしてる。

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