第28話

26話‹綿あめとクマ›
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2018/10/31 11:01
そろそろ花火大会が始まるアナウンスが聞こえると、
随分と足を止める人が多くなって
歩きやすい。



「ほか、なんか食いたいもんないの。さっきのコーヒー牛乳のぶん」


二宮先生は混雑のピークを過ぎた
屋台の前に戻って来た時、そう言った。



うーん……、と迷っていると、
スタスタと綿あめの屋台に近づき、
それを一つ私に差し出す。


「あれ、きらい?」



二宮先生が、
すんなり受け取らなかった私の顔色を伺う。

「いえ!ありがとうございます…」



綿あめの割り箸の部分が短くて、
少しだけ手が触れる。


それを持って少し歩くと、
射的の屋台の前で止まる。


「どれがいい?ご褒美」


えっ!と驚いた顔をした私に、
優しく微笑みかける。




え、なにこの時間。
なにこの夢みたいな展開。



「あのクマさんがいい、です!」



綿あめの時みたいにチンタラしてたら、
また勝手に決められちゃう、
と思って、
とっさに、大きなクマを指差す。



「んじゃ、その横のちっさいやつな」



え?
私の希望を無視して、同じクマの、
手のひらサイズを一発で打ち抜き、
私に差し出す。



「はい、どーぞ。大きいのは満点のご褒美。これは、97点だけど、毎日頑張ったご褒美。」



嬉しくて泣きそう。



他の奴には言うなよって、クマを手渡すと、
綿あめとクマで両手がふさがる私をみて、
鼻で笑う。



二宮先生が携帯を確認して、
行くぞってまた歩き出した。
「ちょっと、ここで待ってて」



少し歩いて私が待たされたのは、
学校の裏門の側で、私が頷いたのを確認すると、
二宮先生らどこかへ行ってしまった。



賑やかな花火大会の会場の音が、
遠くに聞こえて、静かな学校の、
しかも裏側で、また肌で
夏の夜の切なさを感じている。




「こっち」



5分くらい経っただろうか。
斜め後ろから声がして振り向くと、
二宮先生が裏門を開けて私を呼ぶ。



「他の当番の先生も、みんなパトロール出たって言うからさ。」



そういうと、私を校内へ入れて、
向かった先は旧校舎の屋上。



最終下校も過ぎ、当番の先生もいない学校は、
夜の静けさに包まれて、屋上からは、
花火大会の会場付近の
提灯や屋台が煌びやかに見えた。

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