その日の帰り道は、
やたらと蝉がうるさく感じて。
二宮先生の講習の後は、
いつも今日はこれが嬉しかった、
こんなとこもあるんだ、
なんてウキウキしながら帰っていたのに。
今日はどんなだったっけ?
先生、何か言ってた?
あのあと真っ赤な目で、ぐしゃぐしゃな顔で、
トイレから戻って、
化学準備室に入ったのに
しか。
内容もひどく覚えていなかったし、
気がついたら家の前についていたけど、
ここまでどうやって歩いて来たのかも、
全然わからなかった。
失恋
ってこんな感じなんだ………
中学生の頃憧れていた先輩に、
彼女ができたと聞いた時、
嫌だ、なんで!?
って思った。
でも、こんなに苦しくなった記憶はない。
悲しいなぁって思ったけど、
隣に並んでいる彼女さんは、
先輩にお似合いだったから。
それと、そのときに、これは恋ではなくて、
憧れなんだって気づいたから。
見ているだけで十分だった。
だから、こんなに苦しくて吐きそうな、
失恋 は、
本当にこれが初めて。
トントンと階段を上がり、
制服にシワができるのも気にせず、
ベッドに倒れこむ。
他に好きな人がいるとか、
そう言うんじゃなくて
私に興味がないなんて
そんな言葉を聞いて、苦しいんだ。
自分のベッドの布団の匂いは、
いつもと変わるはずもなく、
とても落ち着く。
安心できる。
落ち着いたら涙がこみ上げる。
二宮先生………好きでした。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。