第30話

28話<ご褒美は?>
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2018/11/05 13:08

「それじゃ、休み明け1発目はわかってると思うけど、テストな」




新学期初日、
3時間目。




二宮先生の授業。





「宿題ちゃんと自分でやってきたやつは、合格点取れるように作ってるからな」




プリントを配りながら喋る二宮先生と、
一番後ろの端の席の私と、
バチっと音がするんじゃないかというくらい、
しっかり目が合う。



それを一瞬で外されて、教卓まで戻る。




「じゃ、はじめ」



パラ、とテスト用紙をめくる音がして、
静かな時間が広がる。













———あの日








「………うん」




花火の音に掻き消されそうな、その声を、
唇の動きからなんとか聞き取った。




それは、付き合ってください、
ではないから

イエスでもノーでもなくて。




ただ、聞いたよって、
それだけの意味だと思うけど。




私の気持ちを、もう知られている以上、

これ以上近づけない、

と覚悟はしていた。




あくまで私たちは










先生と生徒。










その日から、今日まで講習はなかったし、
地元の友達と遊んだり、
化学の勉強をして過ごした。



新学期が始まったから、
もう普通の生徒と同じ距離でいよう
と思ったのに。


テストが終わると二宮先生は


「じゃ、放課後、クラスの宿題全部まとめて持ってきてね」


と、言うと目が合う。



これは、私が持って行っていいってこと?
チャンスってこと?



学級委員の子が、終礼までに
宿題を集めてくれたけど、
私が用があるから持っていく、と伝え、

結局また、化学準備室の前にいる。



宿題の山を両手に抱えて、
足でノックをする。


いつもより雑な音に反応したのか、
不思議そうな顔をして、扉を開ける二宮先生は、
すぐに私の手元の状況を把握して、
部屋に招き入れた。



「ご苦労さん」



花火大会の日から、きっと今日まで
来ていなかったのだろう、

とわかるほど部屋は片付いたままで、
私の講習用の机もそのままだった。



「いえ、」


私はローテーブルに
宿題のノートを山積みにする。


「こんなの確認するの大変ですね」


すでに置かれた別のクラスの宿題を見て、
そんなことを思う。


「そうなのよね、困った」



と、
その手は久しぶりにゲームをしている。



よかった。
普通に話せる。



"あの日"のことは、なかったかのような、
何もなかったように、ナチュラルな会話。


「テストは?満点取れた自信ありますか?」


これまでゲームから話さなかった目を、
ちらりとこちらに向けるから、
先ほどのような音が聞こえるように、目が合う。




「おそらく……間違えてても1つ2つです…たぶん」

正直、勉強はしたけど、
花火大会の日以来の二宮先生を前にして、
きちんと解けたかと言われると、

自信はない。

言い訳に過ぎないんだろうけど。



「もし満点だったら、ご褒美は何がいいの」


そんな冗談を、二宮先生はしっかり覚えていて、
こちらが戸惑う。




えっ…

ここで何か物が欲しいなんて、
そんなことは言わないし、
ご褒美なんて冗談だと思ってたから、
何も考えていなかった。


あの日もらったクマさんを思い出したけど、
形が残るものをもらうのは、


もうしんどい。



忘れたくても忘れられなくなるだけだ。




ぎゅーってしてほしい。
なんておこがましい事言えない。



じゃあ、頭ぽんぽんってしてもらうのは?



でも、そもそも触れてもらうなんて、
そんな贅沢な事言えない。



しばらく黙り込んだ私を見ると、
ゲームをする手をやめ、
回答用紙から私のものを1枚抜き、
赤ペンと答えを用意する。






キュ、と言う音と共に、

丸が増えていくのがわかった。

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