第14話

惚れんなよ
1,739
2018/09/27 06:03
二宮和也
名前呼ぶから取りに来て

テストがすべて終わり、
これが返されたら夏休み。


二宮先生の甘ったるい声で1人目が呼ばれると、
2人目3人目は呼ばれなくても
ぞろぞろっと立ち上がる。

クラスで4人目の私は名前も呼ばれず、
二宮和也
ん、
と、裏返しの回答用紙を渡されるだけ。

ちら、とその赤い字をみると
自分
58点……
あんなにおしえてもらったのに、
点数はそれまでと大して変わらなくて、

正直悔しい。


最後の1人まで返し終わると、
二宮先生は黒板に数字を書く。
二宮和也
クラスの最高点と平均点な
コンコンと黒板を手の甲で2回鳴らすと、
その数字を見て驚き。

最高得点は68点。
平均点は40点を切っていた。
二宮和也
今回の範囲、難しかった?平均点はかなり悪いし、正答率も正直良くないんですよ。
とりあえず正答率低いとこ、解説するから間違えた人、ちゃんと書いといてくださいね
みんなが赤ペンをごそごそっと
出す音がして、
先生が問題用紙を見ながら
解説を始める。


58点、て。いい方なんじゃない?私。

赤ペンで解説をしてくれたところを
書き込んでいくけど、
見事に私が間違えたところばかり
綺麗に解説してくれる。


私が、みんなが間違えるとこで
間違えてるだけなんだけど、

でも、まさかね、なんて思ってしまう。


最後の1問まで解説を終えて、
私が間違えた中で解説されなかったのは
1問だけで、

これを持ってまた
化学準備室に行こうと決めた。



放課後、最近は保健室だったから、
なんだか久しぶりの感覚がある化学準備室の
ドアを鳴らす。


中のソファで二宮先生は横になって、
目を閉じていた。


静かにそのそばにカバンを置くと、
座る場所を失ったわたしは、
その場でキョロキョロ辺りを見渡す。


私の来ていなかったテスト期間、
きっと忙しかったんだろうな…。




部屋の散らかり方が、忙しさを物語る。




ちら、と二宮先生を見ると、
その高い鼻が、その長い睫毛が、
その白い肌が、その全てが綺麗で、



つい見入ってしまう。


私の鼓動の音が聞こえてしまうのでは、
と心配になるくらい静かな部屋に、

響く蝉の声、秒針の音。


ソファのそばに近づいて、
二宮先生の匂いをより強く感じる。


柔らかい髪の毛に触れたい、
と伸びた手をグッとこらえて、
しばらくその綺麗に眠る
二宮先生の顔を見ていた。

どのタイミングからかわからない。
もしかしたら、ずっと初めからかもしれない。


いつのまにか目覚めていた二宮先生は、
気づいたら目を開けていて、
初めてここに来た日と違うのは、

寝起き感のある目でこちらを見上げたこと。


急に恥ずかしくなって、
先生から距離を取ると、
二宮先生は眼鏡をかけながら、
二宮和也
俺になんかした?
自分
いえ!なにも!してないです
二宮和也
ふぅん…いいけど、
嘘はついてない。見てただけ。
ちょっと香りを嗅いで、

先生を近くに感じていただけ
二宮先生は、体を起こし
ベッドにしていたソファに座りなおすと
二宮和也
惚れんなよ
もう遅いです。



先生のせいです。







先にそんなこと言うなんて
ズルイです。




あーねみぃ、と伸びをした二宮先生は、


それで、何?また勉強?片付け?
と。

惚れてますよ。
二宮先生に惚れてます。

でも
言えません。

そんな風に
いつもどおり。

いつも来てる
"いつも"って
扱ってくれてありがとうございます。

二宮先生の日常に
私を入れてくれてありがとうございます。

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