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第1話

はじまり
2,955
2018/09/20 13:47



髪の毛を染めるのも、
ピアスの穴を開けるのも禁止。
もちろん化粧をしてくるのも禁止だし、学校で携帯を出すことも、通学路でイヤホンをつけているのも許されない。

靴下まで指定の制服を着て、下着は白なんて決められて、誰が確認するのってレベルだけど、きっと今、巷で話題の「ブラック校則」。

私はこの春からそんな学校の、風紀委員になってしまって、委員顧問は生活指導で化学の二宮先生。

二宮先生は、いつもシャツにジャケットを羽織って、さらに上から白衣を着てる。ジメジメした季節になって来て、最近ジャケットは着ていないけど。
ネクタイをつけているのは式典の時しか見ないけど、足元は他の先生はスニーカーの人が多いのに、いつも革靴を履いている。
少しボサボサなくらいのナチュラルな髪の毛に冴えない眼鏡で、二宮先生に目をつけられたら大変なことになるとかならないとか。


ただでさえ風紀委員会で顔を知られているから、人一倍校則には気をつけていたつもりなんだけど…
二宮和也
眉毛…
廊下でその単語を聞いて振り返ると、隣を歩いてた友達のまりが、しまった!という顔をしていた。
二宮和也
クラスと名前

無愛想な二宮先生がコツコツと革靴の音を立てて近づくと、まりはクラスと名前を伝え俯く。
ふと目があったのは私で。
二宮和也
3組の風紀委員って確か…
あった目を逸らすことなくそういうと、
お友達の注意をできないのは良くないよね、と言わんばかりの顔をして、
二宮和也
放課後科学準備室
と吐き、二宮先生は白衣を翻し、コツコツと革靴の音を時々立てて歩いて行ってしまった。



え?完全にわたしに言ったよね?眉毛描いてるって怒られたのは友達なのに?と、頭にたくさんハテナが浮かんで、まりも
まり
あなた、わたしのせいでごめん!でもわたし大会前で部活忙しいから、お願いね!
って…

部活もしてない暇な私は、結局放課後、重い足取りで化学準備室の前まで来た。
コンコンと扉を叩く鈍い音をならしても、中からの気配ない。


もう一度鳴らしても反応はなくて、
ゆっくり静かに扉を開けると、初めて入る化学準備室が広がっていた。


…というほどロマンチックなものではなくて、教科書やらプリントやらが散らばって、
その中に埋もれるソファで、二宮先生は右手の甲で少し隠した目を閉じていて、
左手には男子生徒からよく没収しているのを見かけるゲームが握られていた。


あの、と声をかけようとした時、
先生が
二宮和也
…んっ…
なんて息を漏らして寝返りを打つものだから、ハッとびっくりしたら、そばに積んであった古い参考書をドサドサっと大きな音を立てて倒してしまい、
さらにはその衝撃で並んでいた試験管たちを思いっきり割ってしまった。

その騒がしい音に、二宮先生は寝起き感もなく目を開けると、冴えない眼鏡を外して、細めた目で
二宮和也
やってくれるじゃん

ってニッとした。


ゾクッとしたわたしは、ごめんなさい!!っておもいっきり頭を下げたんだけど、
そうしたら今度はその頭を上げるときに、棚に勢いよく頭をぶつけた。


わたしが痛がるより先に、二宮先生が
二宮和也
くふふっ、変なやつ
なんで笑うから、あぁこの先生も笑うんだなって少し嬉しくなって、
そのあと先生に頼まれた化学準備室の掃除をなんの抵抗もなく受け入れてしまっていた
自分
二宮先生…割れたガラス全部片付けて参考書も元のように積みました…_

起きてもゲームしかしていない二宮先生の丸っこい背中に話しかけるけど、返事はない。
しばらくカチャカチャというゲームの操作音の響く化学準備室の沈黙は、先生の
二宮和也
っしゃ!
という、ゲームに勝ったであろう声が破って。そのタイミングで二宮先生は振り返った。

うん。とでもいいそうな顔で頷くと、
じゃあこれも。ってバラバラになったプリントを指差す。
二宮和也
左上の日付見て、一昨年のやつは捨てていいから

とだけいうと、先生はまたゲームをし始めた。


完全に二宮先生のパシリだ。



気が遠くなるような作業は終わりを迎えることなく、下校時刻を知らせるチャイムが鳴る。
二宮和也
最終下校よ。早く帰んなさいね。続きは明日、昼休み
と、背中で言って、彼は「またね」というようにひらひらと右手を一瞬あげた。



梅雨の合間の晴れた日だった

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