第32話

30話‹ポケットに小さな魔法›
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2018/11/24 12:01

学校が始まって数日で、
午前授業から通常授業に切り替わり、お昼休みが始まる。


「小田っち、また行くの?」

まりに3時間目の前に言われて、
どうしようか悩んでいた。


とりあえず、何も買わずに、
化学準備室に行ってみる?



でも、
もし違う子に買ってきてもらってたら?



恋をすると、強くなれる。
でも本当はこんなにも弱い。



些細なことが気になって、
ただの想像で勝手に傷つく。



迷って迷った挙句、
手ぶらでその扉をノックしていた。



それが開くと、
チャリ、と小銭の音がする白衣を着た二宮先生。


「あれ、ないんだ」



何も買ってきていない私を見て、
やっぱり買ってくるんだった!と思いながらも、


「嘘、いま買いに行こうとしてたとこ。買ってきてくれんならまたお願いするわ」



と、ぴったりの小銭を握らされる。

本当かよ、
と思いながらも購買へ急いで向かう。


"いつもの"を手にすると、
思い出される花火大会の日。


パンがあったほうが美味しい、
なんて話したあの日。


"いつもの"それを2セット持って化学準備室に戻る。


当たり前のようにそこでお昼を食べる。


部屋の中は夏休みの宿題の確認と、
この前の確認テストの採点で散らかっていたけど、どれが確認したやつかわからなくなるといけないから、
と思い、今日は片付けるのをやめた。



「また放課後、片付けして勉強しようと思ってんの?」



焼きそばパンの袋を開けながら、
二宮先生はこちらを見る。


「ご迷惑じゃなければ…」


コーヒー牛乳のストローを口から離すと、
んー、と困った顔をして、

「この宿題とテスト、片付いたらにして」


今日はダメだけど、
すぐには無理だけど、
来ていいってことですよね?



その嬉しさを胸に抱え、
教室でまりに話す。


「ひゃ〜〜よかったじゃん!行っちゃいなよ!」

というまりは、そうだ!と
カバンをガサガサ漁る。


「これ、あげるよ。倒れた時のお礼!二宮のとこ行くとき付けていきなよ!バレたら怖そうだけど(笑)」



そう言って差し出したのは、
簡単に包装されたピンクの色付きリップ。


「これ、バレずに、でもちょっと可愛くなれるっていまバスケ部で流行っててさ!さっきの大野先生の授業付けてたけど、全然バレなかったの!おすすめ!」


はい、
とそれを握らされる。

「ありがとう!」


やっぱり、好きな人の前では少しでも、
ほんの少しでも、可愛くいたいし、
かわいいなんて思われなくても、
可愛くするだけで少し自信が持てたりするもの。



常時すっぴんの、
こんなガチガチのブラック校則の学校の
先生を好きになったなんて、
かわいい姿を見てもらうチャンスは、
全然ない。




私はそれをスカートのポケットにしまった。

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