猛「ねぇねぇ、俺アイス食べたい!」
義姉「もう歯磨きしたでしょ。駄目です!また明日」
帰宅してお義姉さんにこっぴどく怒られ、暫くは大人しくしていた猛だったけど、夕飯を食べ終えてすっかりいつもの元気を取り戻したようだ
そんな猛がアイスが食べたいと言い出し、それを阻止するお義姉さんとの言い合いが始まった
ん〜…。そのやり取りを聞いてると、私もアイスが食べたくなってくる……
TVを観ながら気を紛らわせてアイスへの欲求と闘う
兄「あなた……」
小声で呼ばれ、お兄ちゃんに肩を叩かれる
視線を上げると親指をクイッと玄関へ向けて指す
兄「お前も食べたくなってたろ?」
玄関扉を閉めるなり、お兄ちゃんが「ハハハ……」と笑いながら私を見下ろす
おっと……
突っ掛けるように急いで履いたスニーカーを履き直す。踵が上手く入らずによろける私の手を取り「ほら、危ねぇなー」と支えてくれた
あなた「お兄ちゃんの奢りならね〜」
顔を上げ「ありがとう」と言って歩き出す
兄「お前。俺の小遣い、いくらか知ってんのかよ?」
ポケットに手を突っ込んでお兄ちゃんも歩き始める
あなた「そんなの知らないよ。知ってたとしても、まだ学生の妹に奢らせないでよね」
兄「ったく……しょうがねぇな〜」
歩きながら何気に空を見上げる
あ、綺麗な満月……
兄「……で、母さんとはどう?」
あなた「ん?」
兄「いや……母さん。お前、特にお前のピアノに執着っつうか……」
あぁ、こっちが本題か……
あなた「心配してくれてるの?まぁ、大丈夫だよ」
ニカッと笑って、努めて明るく返事をする
兄「俺がどう言ったところで母さんが聞き入れるとは思ってないけど、お前が辞めたくなったら別に辞めても構わないと思ってるよ。俺は」
お兄ちゃんは今日の猛を探しに来た時と同じくらい、真剣な顔を私に向けてきた
あなた「ん、ありがとう。でも本当に大丈夫だからね」
もう一度笑ってみせると、「そっか……」と言ってお兄ちゃんは黙ってしまった
一足先を歩くお兄ちゃんの背中を見つめる
私達兄妹は自慢ではないけれど、仲が良い。と私は思っている
お兄ちゃんが結婚してからは、流石に昔ほど連絡を取り合う事はなくなったけど……
歳が離れているのが逆にそうさせたのか、周りの大人に言わせれば、とにかく兄の面倒見が良かったらしい
私にとっても、常にお兄ちゃんが側にいるのが当たり前だった
外で遊んで帰る時にはいつもお兄ちゃんが手を繋いでくれた
「疲れた」と言えば、文句も言わずに私をおんぶして歩いてくれた
お兄ちゃんはいつだって誰よりも私の一番の見方で、一番に応援してくれて、一番に私を甘やかしてくれた
ピアノだってお母さんが一生懸命レッスンに通わせてくれたおかげもあるけれど、それよりも何よりも私にとっての一番の原動力はお兄ちゃんが褒めてくれたからだ
だからってブラコンって訳じゃないけど……
『ウ"____________、ウ"____________、』
あなた「あ、ちょっとごめん」
ポケットに入れていたスマホの振動を感じて画面を確認する
相手は侑くん
兄「何、彼氏?」
お兄ちゃんが画面を覗き込もうと首を伸ばす
あなた「そんなんじゃないから!!」
画面を見えないように背ける
兄「ま、そうだよな。お前ピアノ一筋で、恋愛とか疎そうだもんな〜。恋をしろよ、恋を」
偉そうに言い放ち、「ハハハ……」と笑う
あなた「煩いな!余計なお世話です!!」
笑いながら歩くその後ろ姿の背中目掛けてゴツンと一発グーパンチを喰らわす
兄「っ!痛ってぇなー」
そう言いながらもまだ笑っている
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。