治「なんや、ツム。いつもより遅かったな」
俺より先に校庭に戻ってきとったサムに声を掛けられる。角名も一緒におる
侑「…別に、授業なんかこんなもんで十分やろ。ちょっと水飲んでくる」
2人に言い放ち、校庭のベンチに置いてあったタオルを掴むと水飲み場へ向かう
?「今日はタオル持って来たの?」
校庭に一番近い水道で水を飲み、顔を洗っていると、聞き覚えのある声が頭上から降って来た
顔を上げる
侑「……おん。今日はな…」
ニコッと笑い、ソイツも顔を洗い始めた
その頭上から今度は俺が話しかける
侑「自分、速いんやな」
「ん、何?」とソイツが顔を上げた。前髪が濡れて額に貼り付いている
__________________、!//
水滴が滴る綺麗なその横顔にドキッとする
侑「間宮さん…やったっけ?自分、走るの好きなん?速かったやん」
平静を装って話しかける
あなた「あ、うん。走るの…っていうか、体動かす事は結構好きだよ」
侑「へぇ〜…。そうなん」
あなた「朝早く目が覚めた時は、たまに走ったりするしね」
人懐っこい笑顔でニコッと笑う
侑「__________________っ、//
…せ、せやけど。体育の授業で自分見たの今日が初めてやわ。なんや噂通りなん?指先使わんから、マラソンはええんか?」
あなた「あ、そっか…"噂"…ね。知ってるんだ……でも、そんな特別扱い最低だよね」
さっきの笑顔が一瞬で消えて、間宮さんは悲しそうな顔をして俯いてしまった
予想外の反応に焦る
侑「な、なんや!ピアノの為やろ?!自分"天才ピアニスト"なんやろ?!
天才だって才能だけや無しに、数え切れん程の努力や犠牲が必要やろ?それでも、ピアノが好きなんやろ?」
あなた「へっ?あ、…うん。そうだね!(笑)」
間宮さんは一瞬目を丸くして、驚いた表情をした後「そうだね」と、もう一度ニコッと笑った
その笑顔に
なんや、胸のドキドキが落ち着かん……
侑「あ、…そや!間宮さんのピアノ聴いたわ。スマホの動画やねんけど。やっぱり上手いなぁ」
もう少し話がしたくて、何とか話題を絞り出す
あなた「音楽、興味あるの?」
侑「…いや、難しい事は分からん。せやけど、ピアノ弾いとる間宮さん、楽しそうやったで」
そう言うと間宮さんは「ありがとう」と今度は小さな声で呟いた
俺達が戻ってきてから、どれくらい時間が過ぎたんやろ…
校庭には半分以上の生徒が戻ってきとる
校庭の様子を気にしながら間宮さんは
あなた「あ、私そろそろ戻るね。じゃあね」
そう言って俺に向かって片手をヒラヒラさせて立ち去ろうとする
侑「あ、…おん。あ!なぁ、また話しかけてもええ?」
自分でも驚いた。校庭に戻りかけた間宮さんの後ろ姿に咄嗟に声をかけてしまった
侑「……あ、あれや!俺、クラス違うしな。せやから、迷惑…でなければ」
間宮さんは「そんなの、良いに決まってるよ。じゃあね」と言って校庭に戻って行った
あなた side
自分だけ体育の授業を見学したり、保健室で補習して過ごすのは____________特別扱いそう言われて快く思われていない事は知っている…
それが"やむを得ない犠牲"という事も分かっている
でも、本当は皆と一緒に運動したい!
そんな特別扱いなんて望んでいない!!
__________________でも、ピアノのため……
また怪我をしてしまったら…またピアノが弾けなくなってしまったら……
お母さんが悲しむから
ずっと誰にも本音を言えなかった
誰にも分かってもらえないと思っていた…
あんな風に言ってくれる人がいるなんて…
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!