第6話

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2021/01/10 12:00
ただ、アレ ・ ・は良くないよね……





「俺のサーブの邪魔すんなや。喧し豚が!」


彼のサーブに合わせて掛け声をかけた女の子達をギロッと睨み、吐き捨てるような言い方



言い方っていうか、その言葉も……流石にちょっと言い過ぎじゃない?



言葉を投げられた女の子達は、何を言っているのかは分からないけれど、明らかに不満そうな顔をしている











けど……





そのサーブは素人の私から観ても"駄目"だった





全身をバネのように反らせてボールを打ち込む動きと音は物凄い迫力なんだけど、その手から放たれたボールのほとんどがアウトかネット


仕舞いにはサーブしたボールが真っ直ぐ2階のギャラリーへと飛んで来た


コートでは治くんが「特大ホームランやなあ!!」と叫んでいる





こんな時"出来ない"という事実は誰に言われなくても、本人が一番よく分かっている……


侑くんは明らかにイライラして、ボールに八つ当たりをし始めた

挙げ句、試合中なのに治くんと言い合いの喧嘩を始めてしまった……





キャプテン?だろうか1番のユニフォームを着た選手に何か言われて宮兄弟は急に静かになった








試合が終わると、侑くんは監督らしき年配の人に声を掛けられていたけど……



"イライラMAXや!"みたいな分かりやすい顔で、そのまま何処かへ行ってしまった





あなた「(ププッ……//分かりやす過ぎ… )」



あまりにも"悔しい"という感情をストレートに曝け出すから見ていてつい、笑ってしまった














練習試合後____________





私は何となく彼の様子が気になった





翠には「トイレに行ってくる」と言って彼を探す










人気の無い水飲み場に彼は居た____________















侑 side





「なんやねん!!んな事言われんでも、自分が一番分かっとんねん!!」










試合後、監督に言われた言葉が蘇る





____________「何や、侑。今日のサーブはあかんかったなぁ。ま、次キバレや」










侑「(……サムが余計な一言言うから、喧嘩なってしもて。そのせいで北さんに説教されるし。最悪やん!この…クソサム💢!!

いや、サムがどうやのうて……理由は自分が一番よう分かっとる。最近練習し始めたジャンフロをやってみたくなって ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・……それだけの理由でやったんがあかんかった。連続で失敗して、流石に自分でもヤバイと思ってスパイクサーブに戻したけど……いや、それも含めて北さんに怒られたんや。練習で完璧やないのに、試合で使うなってな

あ"ーー!!今日はな、何か…何かあかんかったんや!たまたま、な!!
ついこの前サムの事"ポンコツ"呼ばわりしたのに、今日は俺がポンコツやんけ!!クソが💢!!)」










ただでさえイライラしとるのに、額やら首筋から伝う汗が鬱陶しくて余計に気分が悪くなる





水道の蛇口を思いっきり捻り、頭から水を被る


頭をガーっと濡らしてタオルを取ろうと水道の上に手を伸ばす





が……手を伸ばした先には何も無かった





侑「(____________あ、……タオル持って来んの忘れてん…)」





取り敢えず……雨に濡れた犬のように頭をブルブル振ってみる










?「…っ、ふふふ……。ま、あれだね。高校No.1セッターにも"あかん"時はあるよね」





頭上から聞き慣れん声が降ってきた





侑「(____________はぁ…何なん💢!?)」



声がした方を向くと、綺麗に畳まれたピンク色のハンドタオルが差し出されている


目線を上げてタオルの持ち主の顔を見る____________








まぁまぁ……いや、かなり整った顔立ちの女が、ニコニコ笑いながら立っている




侑「(……ってか、誰やねん?コイツ…)」


そんなん思っていると「今、こんなのしか持ってないけど」そう言って其奴は俺にハンドタオルを押し付けて去って行った





取り敢えず押し付けられたタオルで頭の水滴をゴシゴシと拭き取る





ため息を一つついて、体育館へ戻った











治「お、戻って来たん?ポンコツ」


侑「____________なっ!?うっさいわ!!お前かてポンコツやろが!
………って、角名は何処行きよった?」


治「……角名?角名はあそこや」











サムが指差した先____________





そこには、角名とさっきの女が笑いながら何か喋っとった










ったく、何なん?あの女____________















治 side





試合が終わって間宮さんの友達……せや、冴島…やったかな?が角名に声を掛けている。一緒に居たはずの間宮さんの姿は見当たらない





治「(便所でも行きおったんやろか)」





暫くすると間宮さんは現れた。真っ直ぐ角名達の所へ向かって行く 


そのまま何か3人で喋ってから、角名にヒラヒラと手を振り2人は体育館を出て行った















あなた side





私達は角名くんにお礼を言って体育館をあとにした





翠「やっぱ、近くで観ると迫力ちゃうやんね!」


あなた「うん!凄かった!!角名くんにお願いしてくれて、ありがとう」


ついさっきまで観ていた試合の余韻が残って、まだ軽く興奮している


翠「あ、なぁ…この後時間ある?せっかくやから、どっか寄ってから帰らん?」


あなた「……あ〜…。っと…」


頭の片隅にお母さんの顔が浮かんだ。さっきまでの楽しかった気持ちは一転して、気持ちが沈むのが自分でも分かる


でも…ピアノの練習は午前中やったし……





あなた「うん。大丈夫!どこ行こうか?」


翠「ほんま?!じゃあ、じゃあ…
駅の向こうにショッピングモールあるやん。そこに新しいケーキ屋さん入ったの知っとる?
そこ行こか」


あなた「あ、知ってる!私も気になってた!!」


翠「よし。決まりやな!行こ、行こ〜」



私は自分の気持ちに蓋をして、翠とショッピングモールへ向かって歩いた


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