侑 side
母「なぁ、これ……あんた達どっちや?」
朝飯を食うとる最中にオカンがピンク色のハンドタオルをテーブルの上に置いた
侑「(__________________、っ!?)」
治「ん?俺は知らん」
侑「…っ、お、俺かて……
あ、あー…そうやそうや!一昨日…なんや拾ったんや!(いや……ジャージと一緒に洗濯籠に放り込んだん忘れとった//)」
自分でも白々しいと思う嘘をついてタオルを鞄に突っ込んだ
侑「あ、もうこんな時間や!サム、さっさとせんと置いてくで!!」
サムとオカンの視線が痛くて、慌てて荷物を抱えて家を飛び出した
「おはようー」
「はよ〜…」
今朝は朝練がない
生徒玄関から入ると挨拶を交わす声、友達と喋る声や笑い声があちらこちらから聞こえてくる
銀島「お、侑!はよー」
侑「おん。おはよーさん」
下駄箱で靴を履き替え、教室へ向かう
隣のサム達の教室の前を通る時に中の様子を伺う
__________________、っ//
友達と笑い合うあの女の姿があった
・
・
銀島「侑〜 次、体育やん。早よ行くで」
侑「おん、今行くわ。なぁ、体育の授業ってサム達のクラスと合同やんな。俺、今まで間宮さん?見かけた記憶無いんやけど」
ジャージを持ち更衣室へ歩きながら一昨日から思っていた疑問を銀島へぶつける
銀島「あー…何か彼女、体育の授業の時は見学か保健室に居るらしいよ」
侑「……それって、体の何処かが悪いっちゅう事か?」
銀島「いや、噂だけど……体育の授業で指を怪我したらピアノが弾けなくなるからって両親が学校側と交渉して"見学"とか"補習"って形で単位を取れるようにしてもらってるらしい
それを特別扱いって言って、あんまり良く思っていない人もいるみたいやけど…」
侑「へぇ〜…そうなん。ってか、1年の時もおったか?あんなヤツ」
銀島「__________________、っ!何言ってるん?!おったよ!おった、おった!!
まぁ、ピアノで賞を獲ってから一気に注目されるようになったんやと思うけど…
って言うか……昨日から侑、間宮さんの事気になっとるん?」
侑「はぁ〜?!別に、そんなんちゃうわ!!」
急に銀が変な事を言い出したから、思わず心臓がドキリとした
そんな胸の内を悟られない様に、銀の脇腹にチョップを喰らわせて更衣室へ入る
銀島「あ、間宮さん。今日は体育出るんだ」
今日の体育はお花見マラソン____________
"花見"と"マラソン"の結び付きはよく分からないが、取り敢えず俺らは校庭に集まる
隣のクラスの集団の中にあの女がおった
侑「(マラソンだったら、指先使わんからええんか?)」
俺の隣で銀は「って言うか、お花見っつっても桜はほとんど散っちゃってんのによー」とブツブツ文句を言っとる
文句を言い続ける銀に適当に相槌をしながら、ジャージ姿で数人の女子に囲まれとるあの女を暫く眺めていた
先生「はーい!今日のマラソンコースの説明な〜____________」
マラソンは男女一斉にスタートして学校近くの川沿いを走り、女子は三つ目の橋を折り返す。
男子は五つ目の橋を折り返して戻って来る
というコースらしい
先生「はーい集まって!よーい、スタート!」
体育教師の掛け声で皆が一斉に走り出す
俺は……何となくあの女を視界に捉えつつ走り出した
・
侑「(何やねん、余裕で走りよるやんか……)」
あの女は女子の先頭集団に紛れて走っとった。しかも、余裕の表情や。額に汗は流れとるけど"苦しそう"ではない。その証拠に、隣を走る女子に時々「頑張れ〜」と声を掛けている
そんな女子の集団を横目で見ながら、俺は走るペースを上げた
五つ目の橋を渡り学校へ向かって走り続ける。途中、銀島を追い抜いた
銀島「あ、、あっつ…む……早、いなっ…」
侑「(なんや銀……バテバテやんけ)」
暫く走ると女子が渡る三つ目の橋が見えてきた
そのまま橋を通り過ぎ、何人か女子を抜き去る
女子生徒「あ〜!侑く〜ん!!」
授業中にまで名前呼ばれても、鬱陶しいだけやねん。背後からの掛け声を無視して走り続ける
侑「(……?あの女…何処行きおった?)」
川沿いのコースを外れて校庭は近い。追い抜いてきた女子の中に、あの女は居なかった
侑「(____________!なんや…めっちゃ速いやんけ)」
校庭に戻ると、すでにあの女は戻って来とった。ゴールしたばかりなんだろう。膝に手を当てて呼吸を整えている
……おもろいやんか、アイツ
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!