あなた「あ、え〜っと……治くん?別に私、迷子になったりしないよ??」
宮家を出る時からずっと私の右手は治くんに握られている
「1人で歩けるよ」と繋いだ手をブンブン振ってみるが、治くんは手を離してくれない
治「そんな心配してるんとちゃうけどな」
私には見向きもせず、真っ直ぐ前を向いたまま治くんは歩いて行く
スポーツマンらしい筋肉質の少しゴツゴツと骨張った固い感触。でも、その感触の割にはそっと優しく私の手を包む治くんの温もりが、繋いでいる右手から伝わってきて
____________、ヤバイ…//
ドキドキしてしまう……
や、違うか……バレー部はコミニケーションの距離感近いんだった!!
そしたらさ、何かこれって……幼稚園児のお散歩みたいじゃない?
あれ?でも、宮兄弟って女子に興味無いんじゃなかったっけ……それって、ただの噂?
ん〜…。何か、もうよく分かんなくなってきた
治「「治くん」やのうて、「治」や」
あなた「へっ……?」
考え事をしながら繋いだ手を見つめて歩いていると、頭上から治くんの声が降ってきた。思わず治くんを見上げる
治「せやから、俺の呼び名。呼び捨てでええよって前に言ったやろ」
あなた「あ、うん……」
治「呼んでみいや。呼び捨てで呼べたら……手、離したる」
あなた「えっ……。何?急に?」
治「ええから。ほら、」
あなた「あ、うん。あ…お、治…くん」
治「ハハハ……ダメやな。「くん」付いとるやん。ほな、もう一回」
あなた「えっと……お、治…」
治「もう一回やな」
あなた「え〜!今、呼び捨てで呼んだよ!?」
治「あなたの心の声が聞こえたわ。心の中で「くん」付けたやろ」
あなた「____________っ、ん"ん〜//、そんなに急には無理だよ〜……
今まで男の子の事、呼び捨てで呼んだ事なんてないし……」
確かに、前に「呼び捨てで」とは言われたけど。だからっていきなり呼び捨てするのは私にはハードルが高くて……治くんの無茶振りに泣きそうになる
治「ほらほら、コンビニに着くまで練習や」
あなた「……お、おさ、む…」
治「もう一回や」
あなた「治……」
治「何や、不自然やな〜。もう一回や」
あなた「治」
治「お、ええやん。ほな、もう一回」
治くんは私が名前を呼ぶたびに「ハハハ……」と楽しそうに笑っている
____________あ、もしかして……。これ、面白がってるだけなんじゃ…?
・
あなた「____________///ヒャッ……。こ、今度は何?ってか、近くない…?……ですか??」
コンビニに着いて、コピーするからと言うと治くんは渋々手を離してくれた
でも今度は私のすぐ隣に立ち、私の顔を覗き込みながら髪を掬って、その長い指先で弄っている
髪を掬いながら、ふとした拍子にその指先がそっと頬に触れる
あなた「____________、ヒャッ……///」
その指先の感触が擽ったくて、頬に触れるたびに小さく声が出てしまう
治「いや……あなたには、これくらいせんとな」
あなた「へっ……それって、どういう意味?」
首を傾げながら治くんの顔を見返す
治「俺の事は気にせんと、コピーせな」
治くんは「フフフ……」と笑いながらも、髪を弄る手は止まらない
あなた「よしっ、コピー終わったよ」
治「おん。なら」
一言だけ呟くと、治くんはもう一度私の手を取り歩き出す
だから……1人で歩けるんだけどな
侑 side
ん……便所言うて、サムのヤツ遅ないか?
う○こかいな?
角名「ねぇ…治、どこ行ったの?」
侑「便所言うてたやん」
角名「……にしては遅くない?」
角名の言葉に銀と小作も手を止めて顔を上げる
侑「……せやな。ちょっと見てくるわ」
____________はぁ?!
便所へ様子を見にきたけど、アイツ居ないやんけ!!!
ま、まさか____________、!!!
玄関を確認する
__________________やられた…
玄関にサムの靴が無くなっとる!!
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。